MFブックス8周年記念・ショートストーリー集

MFブックス

盾の勇者の成り上がり/アネコユサギ

          【メルティの誕生日】



「あのね! メルちゃんがもう少しで誕生日なんだってー!」

 村でのゴタゴタが続いたある日の事、俺とラフタリアの元へとやってきたフィーロが言い放った。

「メルティの誕生日ねぇ」

「そういえば女王様の誕生日だって祝う日がありましたね。いずれメルティちゃんの誕生日も祝日になるのでしょうか」

 あー……日本でもやんごとなき方の誕生日とか祝日になるから、あり得る話か。

「フィーロ、メルちゃんの誕生日を祝いたーい! 内緒で驚かせるのが良いんだよね?」

「ああ、当人を驚かせて感動させるサプライズパーティーってやつな。フィーロがどこで知ったのかは知らんが、よく覚えてたな」

「されたら、とても嬉しいですよね」

 ラフタリアも両手を合せて嬉しそうに答える。にぎやかで楽しいパーティーを想像しているのだろう。

「現実は、当人が結構気付いていたりするんだよな。逆に、気付かず予定を入れられて招待に失敗して悲惨な事になったり……」

「そんな元も子もない……」

「そもそもの話として、メルティは親に祝われるだろうし……」

 アレで王族だし、側近共もわかっているはずだ。

「えー……ごしゅじんさま、フィーロがメルちゃんの誕生日祝っちゃダメなの?」

「ダメとは言ってないだろ。この辺りは女王に相談してからが良さそうだな」

「中々難しそうですね。メルティちゃんも隣町の領地管理で忙しそうですし」

「本人も誕生日に関して忘れてたり、感心薄いかもな」

「……それだけメルティちゃんは私たちや皆さんの為に頑張っているって事ですよね」

 そうだな……あの歳で自分の誕生日を忘れて働き通しって、哀れすぎるだろ。

 せめて誕生日はいろんな奴に祝って貰えば良いよな。

 親元でも、国でも、俺達からでも。

 俺は誕生日に何してたっけ? ……自分でケーキ作って食ってたな。そういえば。

「まあ……メルティも俺達に『誕生日だから祝いなさい!』とか言わないだろうし、こっちが勝手に知って祝った……って受け止めるだろ」

 もっと高飛車なら自分で言い始めるはずなんだけど、そんな様子は無いし、仕事一筋って考えが一緒にいたらわかる。

「仮に上手く女王との話を取り付けたとして、パーティーの準備に気付かれないようにメルティの注意を引く役が必要だが……フィーロは嘘を吐くのがド下手くそだから向いてないな。絶対にやらかして失敗する」

「ぶー!」

 フィーロが何やら抗議の声を上げてるが事実だろ。

 予定を入れさせないように注意を引いて一緒に遊ばせていたとして「あのね! みんなでメルちゃんの誕生日を祝うけど内緒なんだよー!」とか、本人を前にして平然とぶちかます姿が想像出来る。

 それを知ったメルティが、準備をしている俺達を遠くで微笑ほほえましく見るような事になってみろ。こっちが馬鹿みたいじゃないか。

 で、メルティが温かい目で騙された振りをして祝われるんだぞ?

 どこぞのホームドラマとかでありそうな一幕だが、俺としては非常に不服だ。

「内緒で祝うなら、しっかりと本人に気付かれない様にしないといけない。じゃないとつまらん」

「ナオフミ様、やる気があるのか無いのかわかりづらいです」

「メルちゃんの誕生日ー」


 という訳で、俺はフィーロに頼まれて仕方なくメルティの誕生日を内緒で祝う事にすると女王に相談を持ちかけると、女王がメルティの注意を引く役をしてくれると話が付いた。

 頼れる女王様って事なのかね。何か扇で口元を隠していたけど、楽しげに見えたぞ。


 で、時間になったらフィーロが迎えに行くだけとなり、メルティが村に招待された。

「メルちゃん誕生日おめでとー!」

「おめでとー!」

「兄ちゃん達がみんなで準備したんだぞー! おめでとーメルティちゃん!」

 と、パーティーの装飾が施された村の食堂に案内されたメルティに村のみんなで祝いの言葉をかける。

「わぁ……ありがとう。フィーロちゃん。みんな」

 来た当初は一体どうしたの? って感じで全く気付いている様子じゃなかったメルティが、嬉しそうに表情をほころばせる。

 それからフィーロ、村のみんな、ラフタリア、俺へと視線を移した。

「今日は沢山楽しんでいけよ。他の所でも呼ばれてそうだけどな」

「夜に城でもパーティーが予定されてるけど……みんなに祝われているこっちの方が嬉しいわ」

 と、普段俺には見せない嬉しそうな顔でメルティが答える。

 やっぱりコイツは反応が大人びてて、子供らしさが足りんな。

 ただ、心の底から嬉しそうなのは間違いない。

 だが、メルティはケーキの上に刺してある八本の蝋燭ろうそくに目を向けて小首を傾げている。

「八歳の誕生日おめでとう。ほら、吹き消せ」

「違うわよ! ナオフミ! 私をそんな年齢で見てたのね!」

「女の年齢は低めに言われた方が嬉しいと聞いたが?」

「私の年齢でそんな事気にすると思ってたの!? 母上辺りの年齢ならならともかく、私は気にしないわよ!」

「あの……メルティちゃん、色々と危ない事を言ってる気がするので、それくらいが良いかと」

 なんて感じでラフタリアに注意されながら、村でのメルティの誕生日パーティーは賑やかに開かれたのだった。

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