銭(インチキ)の力で、戦国の世を駆け抜ける。/Y.A

             【結婚記念日】



「みっちゃん、もうすぐ結婚記念日だね」

「来週だよな、勿論ちゃんと覚えているさ。プレゼントはどうしようかな?」

「兄貴、結婚記念日なんて覚えているんだ」

「いや、さすがに結婚記念日は忘れないだろう」

「キヨちゃん、そんなことを言っていると結婚できなくなっちゃうよ」

「えっーーー! そうなの? 僕は、新刊と新作ゲームの発売日は絶対に忘れないから大丈夫なはず……」

「私が持つデータによると、結婚記念日を忘れてしまうような男性は、奥さんから離婚されるケースが多いですね。まあ、常務はその前に結婚できていませんが……」

「うぉーーー! キヨマロがひどい!」


 光輝たちが織田家に仕官してから、まださほど年月が経っていない頃。

 もうすぐ訪れる光輝、今日子夫妻の結婚記念日をどう祝うか、三人と一体で相談をしていた。

 もっとも、いまだ独身の清輝は、まったく役に立ってはいない様子だ。

「結婚記念日ですか? 南蛮ではそのようなお祝いがあるのですね。とても素晴らしいです」

 光輝が二人目の妻であるお市に、来週、今日子との結婚記念日のお祝いをすることを伝えると、彼女は目を輝かせていた。

 織田家の人間や家臣たちの間で、毎年結婚した日にお祝いをするなんて話を聞いたことがなかったからだ。

「お市との結婚記念日もちゃんとやらないとな」

「ありがとうございます、光輝様」

 とても喜んだお市は、南蛮には夫婦が婚姻をした日を記念日としてお祝いする習慣があり、今日子だけでなく、自分の結婚記念日も祝ってもらう予定です、といった内容の手紙を兄の信長に送った。

 すると、その手紙を見た織田信長は……。

「つまり、来週新地でなにか美味い物が出るのだな! ようし、その結婚記念日のお祝いとやらに出てやる!」

 基本ワンマンでなんでも即断する信長は、光輝たちに来週のお祝いに出席してやるから、ちゃんとご馳走ちそうそろえておくようにと、光輝たちに手紙を送った。


「……家族内で、ささやかにやる予定だったんだけど……」

「殿が参加するとなると、色々準備しなきゃだね、みっちゃん」

「そうだな。カナガワの食料庫で色々と準備しておこうかなぁ」

 結婚記念日よりも、信長の接待が重要になってしまった光輝たちは、普段の仕事をこなしながら、パーティーの準備も進めるのであった。


 そしてパーティー当日。

「織田の大殿様がいらっしゃるから、我ら新地家の家臣たちも、賑やかし役としてお祝いに参加できるのはありがたい」

「父上、さすがは殿が主催する祝宴。実にいい料理と酒が出ていますな」

 堀尾泰晴、吉晴親子は、パーティー会場となった屋敷の庭で、豪華な料理と、カナガワ特製の酒精分しゅせいぶんが高いお酒を楽しんでいた。

「兄上、このお肉、とても美味しいですね」

「さすがは新地家。康豊、せっかくの機会なので沢山食べておこう」

「そうですね」

 山内一豊、康豊兄弟は育ち盛りということもあり、テーブルの上の料理を次々と食べていた。

「もはや、今日子との結婚記念日となにも関係なくなってしまったような……」

「まあ、みんな楽しそうだからいいんじゃないかな?」

「兄貴、織田の殿様が来たよ」

 清輝が信長の来訪を告げた瞬間、会場に乱入した信長は、テーブルの上に出された料理を見て目を輝かせ、そのまま食べ始めた。

「ミツ、キョウコ。実に美味ではないか。鴨一羽を丸々焼くとは贅沢だな。これはなんだ?」

 信長は鴨の丸焼きを頬張りながら、他の料理についても尋ねてきた。

「鴨のソテーとテリーヌです」

「南蛮の料理か……。普段食べている鴨も、別の料理になるとまた格別の美味さだな。この魚の形をした料理はなんだ?」

「スズキのパイ包みです。どうぞ」

 今日子が、パイ生地とスズキの身を小皿に取り分けて信長に差し出すと、食欲旺盛な彼はそれを豪快にかきこんだ。

「ぱいのサクサク感と、すずきの身のしっとりした身が実に……。それは?」

「猪肉の赤ワイン煮と、ミートパイです」

「わいん……南蛮の酒か! わいんで、味に深みが出るものなのだな。そうだ、サル! 権六! お前らも好きに食え!」

「いやあ、これほどのご馳走。さすがは光輝殿ですな。それにしても、結婚した日のお祝いですか。今度ねねと祝ってみようかと思います」

 護衛として信長について来た木下藤吉郎は、役得とばかりに各テーブルを回って料理を食べていた。

「ふん、まあまあだな! ところで! もしやお市様を粗略に扱ってはおるまいな?」

「柴田様。光輝殿は、お市様と結婚した日にもこのような祝宴を開く予定だそうです。お市様は大切にされていますよ」

「本当にそうならいいがな!」

 柴田勝家は不機嫌そうな表情を崩さなかったが、料理は誰よりも大量に食べていた。


「我も忙しいのでな。では、今日はこれにて。市、また来るぞ!」

「兄上、またのお越しをお待ちしております」

 短時間で大量の料理を食べつくした信長は、再び馬上の人となった。

「光輝殿、ご馳走様でした」

「殿の護衛だから、仕方なくここに来ただけだ! 勘違いするな!」

 藤吉郎と勝家も馬に乗り、そのまま岐阜へと戻って行った。

「……終わった……」

「だね」

 まったく結婚記念日らしくない祝宴であったが、信長の不興を買わずに済んでよかったと思う光輝と今日子であった。

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