八男って、それはないでしょう!/Y.A
【誕生日】
「エリーゼ、誕生日おめでとう」
「ありがとうございます、ヴェンデリン様」
「めでたいな。エリーゼは十四歳か。俺の方が三ヵ月ほどお兄さんだ」
「とてもそうは見えないけどね。エルの方が弟って感じ」
「ううっ、心当たりがありすぎて言い返せない……」
「今日のケーキと料理は、ボクとイーナちゃんとヴェル。そして、ほんのちょこっとエルが手伝ったから」
「ほんのちょこっと言うな!」
「みなさん、ありがとうございます」
王都にあるバウマイスター男爵邸において、エリーゼの誕生パーティーを内々で祝うことにした。
王都において『ホーエンハイム家の聖女』などと呼ばれている彼女なので、ホーエンハイム
俺も去年からそんな感じなので、俺たちだけでささやかな誕生パーティーを開催するのが恒例となっていた。
「今年の料理の出来はいいと思うんだよ」
「本当ですね。
「ケーキも、去年より飾り付けが確実に進化しているからね」
「ボクもイーナちゃんも頑張ったからね。エルには触れさせないようにして」
「俺が飾りつけると、そんなに駄目か?」
「エル、去年の反省をちゃんとしなさい」
「味はよかったけど、去年のケーキの飾り付けは感心できなかったよね」
エルにケーキのデコレーションのセンスを求めても仕方がないが、それを自覚しないで積極的に参加しようとするのはよくないと思う。
去年のケーキは、味はともかく見た目が凄かったからな。
「今年はケーキも大きくしたからな。余ったら、明日ローデリヒやドミニクたちにも配ろう」
「それがいいですね」
プレゼントは前日のパーティーですでに渡しているので、今日は楽しく気軽に、身内で楽しく飲み食いするだけだ。
「お酒はないけど、乾杯しよう」
「ヴェルが色々と用意したから、飲み物の種類が多いな」
「私、オレンジジュース」
「ボク、木イチゴのジュース」
「エリーゼは?」
「このザクロのジュースが美味しそうですね」
「これ、この前の採集で手に入れたものをジュースにしたんだ」
「そうだったのですか。とても美味しそうですね」
「
「「「「「あれ?」」」」」
五人だけで行う内輪のパーティーのはずなのに、今導師の声が聞こえたような……。
声のした方を見ると、導師がなに食わぬ顔で部屋の中にいた。
「あのぅ……導師?」
『どうして呼んでもいない導師が?』と、直接彼に聞く勇気はなく、つい言葉足らずになってしまう。
というか、よく今日のパーティーの情報を
「実は先週、某の誕生日だったのである!」
「……そう……なんですか……」
エルが、心の底からどうでもいい情報を知ってしまった、という表情を浮かべた。
導師とエリーゼの誕生日が同じでなくてよかった……なんて失礼な考えが、俺の脳裏に浮かぶ。
まだ十四歳で、しかも美少女であるエリーゼの誕生日ならともかく、アラフォーで筋肉ムキムキ親父の誕生日……不平等かもしれないが、別に祝わなくてもいいような気がするのだ。
「某も年を取り、このような仲間内での楽しい誕生パーティーと縁がなくなってどれほど経ったか! つい参加したくなってしまったのである! 酒がないのは不満であるが、これは、某が持ち込めば問題ないのである!」
誰も許可を出していないのに、導師はいわゆるお誕生日席に座るエリーゼの隣に腰を下ろした。
「(ヴェル、どうする?)」
「(どうするも、こうするも。エルが、招待してないから出て行ってくださいと言うか?)」
「(それは嫌だ)」
言うまでもなく、俺だって嫌だ。
「伯父様も一緒にお祝いいたしましょう」
「すまぬな、エリーゼ」
このパーティーの主賓であるエリーゼは、快く導師の参加を認めた。
さすが、ホーエンハイム家の聖女だな。
実に情け深い。
「では、某はこのとっておきのワインで乾杯するのである! 料理もケーキも実に美味そうである!」
というわけで、なし崩し的に導師も参加して、内輪のパーティーが始まった。
「「「「「「乾杯(である)!」」」」」」
「ホロホロ鳥が出ると、ご馳走って感じるよな。ヴェル、丸焼きの中になにか入っているけど……」
「内蔵を一旦取り出してから丁寧に下処理し、一口大にカットしてから下味をつけ、丸焼きにするホロホロ鳥の中に戻したんだ」
「コリコリしていて美味しいですね」
「エリーゼ、それはホロホロ鳥の心臓だ」
「楽しいお料理ですね」
「エリーゼが、気に入ってくれてよかった」
「ワインが進むのである!」
予想外の参加者が加わったが、エリーゼが喜んでくれているようなのでよかった。
次はルイーゼの誕生日だけど、なにを作ろうかな?
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