ある猫の幸福


 「……っ、なんで……なんでもう……逝っちゃうのっ……」


 見える。私のために泣く、大好きな姉の姿が。


 「……しょうがないのよ……どうしても、先に行っちゃうって、わかって……」


 誰よりも強く見えた母の、涙が。


 「……きっと、天国へ行ったさ……ぜったいに……」


 父の、涙のにじむ優しい瞳が。


 そして、みんなの目の前で、眠ったように横たわっている——私の姿が。





 ——やっぱり、私は『猫』だったんだ。





 あの人……いや、あの猫の言っていた通り、私は、人間じゃなかった……。これで、証明されちゃったな。


 でも、私が家族みんなと同じ人間じゃなくても、やっぱり私、みんなとちゃんと家族だった。

 ……そうだよね。


 だってこんなにも私を惜しんでくれてる。


 それを見たらもう、自分が猫だ人間だなんて、どうでも良くなる。

 自分は猫であるということより、この人たちと家族だったということの方が、私にとって大事なことなんだから。


 でもね。頭のいいあの人に教えてもらってなかったら、こんなふうに割り切れなかったんだろうなぁ。


 きっと、あの人へありがとうを伝えに——



 さあ、いかなくちゃ。










 私は結構、愛された方の猫だと思う。


 ……そうは思わない?






 ——だって私、今こんなにも幸せ——


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しあわせ シチセキ @sichiseki

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