中編

 路地裏の奥から突然現れたカボチャ頭の男性。

 なおも警戒の眼差しを向ける魔女たちに対し、男性は言葉を続ける。

「悪かったね、驚かせて」


 その言葉に答えるように、マリーチルがしかめた表情で声を出す。 

「何というか……あなた……くさい」

「マリーちゃん!? もっと違う言い方は無かったの!?」


 2人が男性から感じ取っていたのは、錆のような臭気と瘴気。

 その容姿も含め、彼から発するその異常な雰囲気が魔女たちの警戒心を

煽っていたのである。

「……私たちに何かご用ですか?」

 アズリッテがマリーチルを庇うように前に立ち、男性へと話しかけた。


「まさか、こんな所で私の姿を認識できる人に出会えるとは思わなかったよ」

 その時、アズリッテの後ろにいたマリーチルが再び彼女の前に出ると

男性に問い掛ける。 

「話から察するに、お兄さんはこの世の人じゃないってこと?」

「ああ、既に処刑されてこの世から去った者だよ」


「処刑って……お兄さん悪いことでもしたの?」

「……私は生前では非道な罪人、故にあの世からも拒絶された存在だよ

だから君達が感じたように、まともな奴ではない」


 自身の素性を明かした男性の言葉に、マリーチルが再び問い掛ける。

「つまりは……悪霊?」

「マリーちゃん……お願いだから言葉を選んで……」


「気を使わなくていい、悪霊か……全くその通りだな」

 それぞれの言葉を発する魔女たちに対し、男性は自身を哀れむように言葉を

返した。

「だが心配しないでくれ、もう悪いことはしない……と言うより出来ないがね

……それじゃあ、久々に『人間』と話が出来て楽しかったよ」

 

 そう言うと2人から背を向け、路地裏の奥へと歩き出す男性。

 そんな男性をアズリッテが慌てて呼び止めると、彼女は静かに口を開く。

「行きたいですか……?本来行くべき場所に……」

「ああ、もう彷徨うのは疲れたよ」


 アズリッテの問いに男性が重たい声で答えると、彼女が再び口を開く。

「なら、もう1つだけ教えて下さい」

「……何だい?」

 

「貴方が過去に何をしたかは聞きませんが、その事に対し後悔は?」

「後悔しているさ、長い間世界を彷徨って……色々な人を見て……自分がいかに

愚かだったか……気付くのが遅すぎたよ」


 普段の穏やかな表情と違い、真剣な表情で問いかけたアズリッテ。

 男性が落ち込んだ声で答えると、その言葉を聞いていたマリーチルが男性へと

声を掛ける。

「生きている内に気が付くべきだったね、本当なら悪い人に手は貸したくないけど

心から反省しているみたいだし、私たちが何とかしてあげる」


「もしかしてマリーちゃん、私が何を言おうとしているか分かったの?」

「もちろん、だってお姉ちゃんだよ?」

 感心の声を上げるアズリッテに、マリーチルは得意げな表情で答えた。


「出来るのか、そんな事が……?」

 突然の提案に驚きの声を上げる男性に、魔女たちはその考えを告げる。


「私たちの故郷に伝わる鎮魂のおまじないを試します、ですが私達も

試したことが無いので本当に効果があるのか分かりませんが……」

「もし、これで駄目だったら悪いんだけど諦めてね」


 マリーチルの念押しの言葉に対し、男性は静かに頷いた。

「……構わない、どうかよろしく頼む」

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