魔女と南瓜と鎮魂の歌
小本 由卯
前編
……魔女の国。
その名の通り、人間と住処を分けた魔女たちが平穏に暮らす場所である。
そこで暮らしている魔女たちの感情は様々であり、人間に対し憎悪や恐怖を
抱く者もいれば、全く興味を示さない者もいる。
更には、人々あるいはその文明に興味を向けてしまう変わり者も少なからず
存在しているのも事実であった。
そんな魔女の国で仲良く暮らす、2人の義姉妹がいた。
姉のマリーチル。
妹のアズリッテ。
この2人もまた、そんな変わり者の魔女たちである。
この日、アズリッテに慌てて駆け寄るマリーチルの姿があった。
「アズリー! 魔女が……魔女がいるよ!」
「……? 魔女が魔女に何を驚いているの?」
「そうじゃないの! 見て!」
そう言うとマリーチルは、疑問の表情を浮かべるアズリッテの目の前に
魔法の鏡を突き出した。
アズリッテが鏡に視線を向けると、そこに映っていたのはある街の賑やかな様子と
魔女の身なりをした少女たちの姿だった。
鏡に映る光景を直視したままのアズリッテに対し、マリーチルは慌てた声で言葉を続ける。
「こんなに魔女が集まって……まさか戦争!?」
「これは……ハロウィンかな?」
「……え?」
騒ぎ立てるマリーチルをなだめるように、アズリッテは穏やかな声で口を開いた。
「ハロウィン? 何それ?」
「私もそれほど詳しくはないけど、ハロウィンっていうのは……」
アズリッテの説明を静かに聞いていたマリーチルであったが、ある一説を聞いた
ところで再び彼女が騒ぎ出す。
「食糧を要求して、応じなかったら焼き払うって……それ脅迫じゃない!
ちょっと文句言ってくる! 気高き魔女がそんなことをする訳がないでしょう!」
「待って! 最後まで話を聞いて! あと焼き払うとまでは言ってないよ!」
制止するアズリッテに対しマリーチルが膨れた顔のまま向き直ると、アズリッテは話の続きを彼女へと伝える。
「上手く説明出来ないんだけど、そういう風習というか……お約束みたいな……
お互い分かってのことなんだよ」
説明してもなお、どこか腑に落ちない表情を浮かべるマリーチル。
この様子となった彼女に対し、アズリッテが掛ける言葉は決まっていた。
「それじゃあ少しだけ、見に行ってみる?」
……。
支度を整えて街へと訪れた2人の魔女。
外見だけなら人間の女性と全く変わらない彼女たちの存在は
魔女と疑われるどころか、気にも留められないのである。
そんな2人の視界に映っているのは、賑やかに彩られた街の様子と
魔女の衣装を纏い、街の中をはしゃく少女たちの姿だった。
「楽しそうね、街の人たち……」
その様子を遠目で見ながらマリーチルが静かに呟く。
「嘘ではなかったでしょう?」
「うん、でもアズリーの話を疑っていた訳じゃなくて実は鏡を見ていた時に少し
気になったことが……ん?」
その時、マリーチルの話を遮るようにアズリッテが慌てて背後を振り返った。
「……アズリー? どうしたの?」
「マリーちゃん……嫌な気配がする……」
そう告げて路地裏の奥へと警戒の眼差しを向けるアズリッテ。
合わせるように同じ場所を向いていたマリーチルも、すぐに彼女の言葉の
意味を理解した。
「え!? 何あれ!?」
驚きの声を上げるマリーチルの視線の先から姿を現したのは1人の男性。
しかしその容姿は、カボチャをそのまま首に繋げたような頭部を持つ
異形の存在であった。
男性はそんな魔女たちの警戒をよそに、2人へと声を掛ける。
「……思った通りお姉さんたち、私の姿が見えているみたいだね」
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