第8話 勇者の宣言

「という訳で、婚約は進んだのですが」


「あの男サイアクなのだ」


「お二人が初めて直に逢われる日の事です。

 キスキル・リラ様は実物の人間の王を見てショックを受けてました」


「私はっ、ショックは受けたが。

 仕方ない。

 これも魔族と人間族の和平の為。

 『こんにゃろうっ、私の純情返せ』

 という気持ちを胸に押し隠し、

 あの腐ったデブ男に笑って見せたのだ」


「はい、ご立派でした」


「ところがあのジジィと来たらだな!

 私を見て。

 『なんじゃ、この年増は!

  ワシのエンジェルちゃんはどうしたのだ』

 と騒ぎ出しおって」


「気持ち悪いコト、

 この上なかったですな」


「挙句、魔族と人間族の不戦協定の調印まで

 すっぽかしおって」


「我ら魔族が、魔王との婚約はどうするのですと詰め寄ると」


「『こんな爪を生やしたバケモノと結婚出来る訳無かろう』

 と私を・・・私を醜いバケモノと罵り追った」


「それは・・・」

「ヒドイ」


るるる子ちゃんと巫女は同情。

キスキル・リラは確かに腕が鳥の様。

その先は大きい爪が光ってる。

でもそれもアクセント。

全体を見れば間違いなく、セクシーな美女なのだ。



「私もあの王はヒドイと思います」


召喚の巫女さんだ。

巫女のお姉さんは山奥の神殿で暮らしていたらしい。

そこにいきなり王の兵士が襲って来た。

勇者を召喚出来る能力があるモノを渡せ。

渡さなければこの神殿をメチャクチャにしてやる。

そう言うのである。

仕方なく、巫女のお姉さんは王のもとに出向いた。

そこでるるる子ちゃんを召喚したのだ。


「すいません、勇者様。

 あの術は勇者様をご自分のいる世界から強引に連れて来る術。

 本来使うべきではない術として伝わっているのです。

 私は神殿にいる方々が人質に取られやむなく。

 勇者様にはご迷惑おかけしました」


王の兵士達は神殿にいる神官たちを捉えている。

巫女のお姉さんが術を使わなければ、神官たちを殺すと脅したと言うのである。


「なにそれ、サイテー。

 魔族の人達とキスキル・リラ。

 あのオッサンと戦ってるんでしょ。

 決めた、アタシ魔族の見方する。

 あのオッサンと人間達を滅ばしてやるわ!」


 

いえ、あの。

召喚の巫女は少し慌て気味。

王様を懲らしめるのは良いのですが。

人間達を滅ぼすと言うのはちょっと・・・。


しかし既にるるる子ちゃんは魔族の人々と腕を天に突きあげてる。

魔王キスキル・リラと肩を組んでる。


「よーし、さすが勇者だ。

 あの王と人間どもをやっつけよう」


「勇者様が魔族に加わるとは」

「これで怖いもの無し」


「勇者!」

「勇者!」


盛り上がってるのだ。

とても巫女のお姉さんに止められる雰囲気では無い。

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