第16話「あたしだって嫌だよ。」とヨウコなら言うだろう。


 会社にこき使われて、満員電車に乗って帰るような生活。「あたしだって嫌だよ。」とヨウコなら言うだろう。「何が正常で、何が異常か。」オレにはもう分からない。「狂ってるのは、世界なのかオレなのか。」と言うと、ヨウコが笑った。「働いている人はえらいってこと。」無職のお前が言うことか、とは思ったが。「慰謝料とかは?」とオレが聞くと、彼女はうなずいた。「お金ってあるとこには、あるもんだね。」などと言うからには、それなりに頂いているのだろう。「女が一人で生きていくのって、大変なんだよ。」そんなこと言うところは、昔から変わらない。


 壁にかけてある写真を見ながら、オレは妻の手料理を食べる。大根の千切り、冷奴、魚の煮つけ、お吸い物にはそうめんが入っている。こういうのってセンスだ、とオレはつぶやく。「ん?」と妻は聞く。首を振ってから、「おいしい。」ってオレは伝える。「ありがと。」と妻は笑う。


「はぁ。」と妻はため息。

「その写真?」と私は聞く。

「んー。」と妻は唸る。

「アメリカ軍?」と私は鉛筆で書く。

「多分。」と妻は答える。

「なんで、そんなの持ってるの。」と私は言う。

「…もらったの。」と妻。

「誰に。」と私はさらに聞く。

「奥さん。」と妻は言った。

「どこの?」と私は質問攻めだ。

「前に、ここに住んでいた。」とキミは言う。

「ああ。」私はようやく知った顔に思い当たる。


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