第15話 オレのことを疑っているのか
妻がなぜ上田美穂の話を聞きたがるのかは分からない。オレのことを疑っているのか。しかし過去を知って何になる。ましてや脚色された過去ならなおさら。いや、脚色されていない過去などはない。それは結局それぞれの印象。「それでいい。」と妻は笑う。「キミがいいのなら。」とオレは話を続ける。
上田美穂はかわいいタイプの女性で、オレはどちらかといえばそういう女性が好みだった。もちろん好みなんて変わるもので、ある日はハンバーグ、ある日は肉じゃが、ある日はエビチリが食べたくなるのが男だ。正直言おう。そこに愛だの純粋などという言葉はなかった。ただ肉体的なつながり。または一人が嫌だという寂しさ。独り占めにしたいという独占欲。あらゆる不安や欲望が渦巻いていた。生きるって、そういうことだと思ってた。
「食器。」と上田美穂が言う。
「え?」オレは返事をする。ビールを飲みながら。
「洗ってないなー。」と独り言のように彼女は言う。
「ああ、ごめんね。」とオレは素直に謝る。
「何してたの、一日?」と彼女は言って、缶ビールを開けた。
「んー。」オレは唸る。仕事とは言いたくない。
「いいけどさ。」と彼女は言う。少し怒っているようだ。
「会社で何かあったの?」とオレが言うと、彼女はソファに座る。
「別に。」そう言って、プハーと音をたてた。
「お見事。」オレは言う。
「何が?」彼女は振り返りもせずに言った。
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