第17話 彼女は石神井公園に住み始めた。
「この辺って、いい所だね。あたしも住もうかな。」って光ヶ丘公園に来てヨウコは言う。彼女は石神井公園に住み始めた。どちらも公園の近くだ。「十分そっちもいいだろ。」とオレは言う。「そうかな、ちょっとジジくさい。」とヨウコは笑う。「でも池とか、いい感じだろ。」とオレは言う。「まぁね。」と彼女は言って、肩をすくめた。「ワインでも。」と昼間からオレは言う。「いいね、アメリカを思い出す。」とヨウコは言う。「アメリカではビールだけどな。」とオレは答える。ウェイターが来ると、オレは黙って白ワインを注文した。
お酒で思い出すことがある。過去の失策や、みじめな思い、または激しい雷雨。あの時も雨が降っていた。スコールみたいな激しい雨で、横にはヨウコがいた。彼女は涙を浮かべていた。珍しく。いや、泣いていたのはオレのほうだったかもしれない。すべては印象であり、思い出、消え去るもの。でも、なぜ泣いているのか、それが思い出せない。物事には原因と結果があるはず。誰かが泣いているなら、そこには理由がある。たとえ情けないものであっても。
涙を浮かべている上田美穂がソファにもたれている。「そんなに?」とオレが後ろから声をかけても反応がない。「おーい。」とオレが再び言うと、「黙って。」というポーズ。そしてもう一度テレビに向き合う。テレビドラマで泣くほど安い涙はない。何しろテレビは無料で放送しているのだ。NHK以外は広告収入に頼っている。「直接、コンテンツに料金を払うものとは違う。」そういうことを説明しても、彼女は首を振るだけだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます