第13話 三人目の女について書こう


 三人目の女について書こう。彼女は昔馴染みだ。「昔馴染みほどいいものはない。」これはオレの考えでなく、アンティーク家具店のコピーで書いてあったことだ。どちらにしても、それは一面を表している。なぜならヨウコはいつでもヨウコだから。彼女はアメリカ人と結婚して向こうに渡ってしまった。それ以来、音沙汰がなかったが、ある日彼女から連絡があった。「会いたいんだけど。」と言う彼女の声は、どこかうわずっているように聞こえる。まるで異空間とでもつながっているようだ。


「久しぶり。」とヨウコはコーヒーを飲みながら言った。彼女ほどコーヒーが似合う女はいない、というのが出会った頃からオレが抱いている彼女の印象だ。

「で?」とオレは聞く。他に聞くことがなかったし、聞いたとしても彼女が答えてくれるとは限らない。

「ジ・エンド。」とヨウコは言った。

「どういう意味。」オレは意味を計りかねて尋ねる。

「そのままよ。英語も分からないの。」ヨウコはタバコに火をつけて言う。

「ああ。」オレは半ば相手にしないようにしながら、彼女の金髪を眺める。

「どう?」オレの視線を感じて、ヨウコは言った。

「どうかな、金髪は。」とオレは曖昧に答える。

「相変わらずね。」オレの答えに満足するはずもなく、彼女は煙を吐く。

「エンドって?」訝しげにオレは聞く。

「だから、マリージ・ライフ。」結婚生活、そう強くヨウコは言った。

「別れたってことか。」オレが言うと、ゆっくりと彼女は首を縦に振る。


 ヨウコと会ったことを妻に話したら、彼女は微笑んだ。そして彼女はじっとオレを見る。「そういう関係とかじゃない。」とオレは半ば本当のことを言う。「だったらいいけど。」妻はうなずいて、去っていった。信じたのかどうか。でも深入りしないのが関係を続けるコツ、とでもいうように。しかし確かにオレはヨウコと付き合っていたわけではない。


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