第12話 「ああ。」って答えた彼女は、興味なさそうな顔で
上田美穂と再会したのは、一か月も過ぎてからだった。たまたま池袋で彼女を見かけたのだ。「まさか。」って思ったオレは後ろから声をかけた。「ああ。」って答えた彼女は、興味なさそうな顔で「久しぶり。」って言った。「どこ行くの?」ってオレが聞くと、「ちょっと、人と会う。」と彼女は言った。オレは芝居を見に行くところだった。それを彼女に言うと、「あ、そうなの。」と言った。「あとでちょっと会う?」って誘うと、彼女は「何度か電話したんだけど。」と言った。オレは少し考えてから、ゆっくりとうなずいた。
暑い日だった。カクテルがお似合いの夜。池袋のバーで、オレは彼女といい感じにお酒を飲んだ。そして観劇の感想とかを言っているうちに、終電が近づいた。「何線?」って聞いたら、「成増。」って答えた。「そっか。」とオレは答える。半ば強引に「もう一杯のもう。」と言って、彼女の部屋に押しかけた。弟なんて最初からいなかったのだ。だけど、そんなことを言うほど野暮でもない。
「バカ。」と妻は言う。
「何が?」と私は手話で聞く。
「あなた。」と妻は笑う。
「オレ?なんで。」と私は妻の肩を抱こうとする。
「だめ。」と妻は拒否する。
「なんで。」私は妻の髪をできるだけ優しく撫でる。
「だって。」彼女はうつむく。
「だって?」うつむき加減の彼女の美しさに心を打たれる。
「だって。」とキミは言う。
「だって?」私は妻の手をとる。
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