第8話 オレはそれを勝手に「光ヶ丘文化圏」と呼んでいる
よく考えると、現在住んでいる光ヶ丘公園というのも成増からもほど近い。オレはそれを勝手に「光ヶ丘文化圏」と呼んでいる。別に大した根拠があるわけじゃない。ただの思い付きだ。でも思い付きが、何かを表現していることもある。なぜあの時、雨が降っていたのか。なぜオレはあの公園にいたのか。時々考えるんだ。でも回答は闇の中。しいて言うなら「光ヶ丘文化圏」がそうさせたのかもしれない。
よく恥ずかしげもなく「光ヶ丘」なんて名前をつけたもんだ。オレがそう言うと、妻がある写真を持ってくる。古びたセピア色の写真二枚。一枚には飛行機が映っている。もう一枚には、笑顔の外人の家族。男は軍服を着ている。多分アメリカ人だろう。「なにこの写真?」とオレが聞いても、妻はただ笑っている。その笑顔が何を意味しているのか、オレには分からない。
上田美穂は成増の駅を降りた。オレはそれを目ざとく見つけて寄っていく。野ネズミどころか、ハイエナに群がるハエだ。彼女は池袋の仕事帰りで、死んだようなもの。ただ恰好はそれなりに清楚にしている。「ご飯食べた?」オレが偶然を装って聞くと、彼女は「あれ?うん。」と答えた。「じゃ、飲みにでも行く?」と歩きながら誘うと、少し考えてから「弟が待ってるから。」と答えた。その意味がオレには一瞬分からない。女って、時々こういう手を使うものだ。それとも都会の女性が特別なのか。
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