第15話 嫉妬と奇病

人間には【向上心】がある。

いや、ここは他者を見下したい【嫉妬】と言うべきか・・・兎に角、他者に勝ちたいと思う者が多数居るのだ。


企業内、国家権力、競技スポーツをはじめ、道を歩く時にさえ急いでもいないのに、見知らぬ者に追い越されるのを嫌がる。


何かの必要性があって二次的なものならば兎も角、他者に対して出世したい、勝ちたい、トップに立ちたいと言う感情は、どんな言い訳をつけても【嫉妬】と言うものに過ぎない。


【嫉妬】


ある宗教では、人間が元々持っている【原罪】の一つとされているが、その宗教の崇める創造主は、どの様な意図をもって、その様な物【原罪】を人間に付けて創造したのか?


試練か?


創造主の命令に従わなかった者への自滅因子なのか?










どんな手段を使っても、アースガードの秘密を手に入れられなかった者達は、少し方向性を変えて、その敵側から技術を得ようとしたのだった。


場合によっては、アースガードより強力な力を手に入れられるかも知れないと、妄想を走らせるのは無知が成し得るものだったのだろう。


研究の結果、特殊な高温炉で消却処分されていた宇宙怪獣達の残骸を、秘密裏に持ち去り研究する団体や国家が増えてきたのだ。


元より、地球と異なる生態系の生物を解析するのは生易しい事ではなく、生物は死と共に状態を維持できずに自壊していく物だ。


そんな中で、まだ体組織が死にきっていない個体を入手した団体が、その培養に成功した。


正確には、宇宙怪獣と共生していた微生物らしき物の抽出と培養に成功したのだ。


研究者は歓喜した。


この微生物らしき物は、怪獣の体液を輸血した実験用マウスに寄生し、培養にも成功したと思われたが、それは地球環境への適応を生んでしまったのだ。


「非常事態です。ゴムパッキンが腐蝕されて、ウイルスが外へ漏れました!」


地球環境への適応を成した生物は、結晶の様な胞子を大気に乗せて、培養装置の外へと広がってしまった。


この組織が、製薬会社や生物兵器専門の組織でなかったのが災いして、胞子は施設外へも漏れ出す事となったのだ。



それから半年後。

ネズミとゴキブリを主な感染源とする【ネオペスト】が、世界を宇宙怪獣とは別の恐怖へと突き落とす事となる。



最終的には血液が凝固して、死に至る奇病【ネオペスト】

無症状の期間は約一ヶ月。

その間も、呼吸する度に拡散する。


スイスのジュネーヴにあるWHO/世界保健機関のネオペスト対策チームは、この奇病が未知の生態系の物である事を調べ、宇宙怪獣の死骸を食べたネズミなどが原因と判断した。


勿論、一部には諸外国が生物兵器として宇宙怪獣を研究した副産物だと言う陰謀説も飛び交ったが、物証も見付からず、多くの国や団体が否定に回っていた。


殺菌が効かず、物に付着した胞子が傷口などの血液に触れると感染する事までは解明したが、それから三年経ってもワクチンの開発には至らなかった。


人々は、フィルターで保護された室内から出ようとはせず、肉類は避けられ、温室栽培の食品が高値で取り引きされ始めた。


外出時には防護服を着用し、帰宅すると防護服は焼却処分した。

玄関の次には洗浄室が設けられ、全身を洗い流してから室内へと入る生活がスタンダードと成りはじめている。


産業は衰退し、全ての国が人口を減らし、世界の終わりが叫ばれている。


テレビ放送で、宇宙怪獣との関係が大統領を前に発覚した女神教は壊滅し、【女神】も姿を消した。


日々、衰退する中で、軍事費も掛からず地球を守ってくれるアースガードは、数少ない人類の希望となっていた。















〈愚かだな〉

〔はいっ、自分で首を絞めるとは〕


愚行に呆れた感情が流れる。


〔進捗状況は、どうなのです?〕

〈稼働率は五割に押さえているが、すぐに八割まで稼働できる様には準備できている〉

〔宇宙怪獣の攻撃も無くなってきましたし、そろそろ宜しいのではないですか?〕


想定では、もう少し宇宙怪獣の飛来が続く予想だったが、何が要因したのか判明してはいない。


〈原因は、例の変異ウイルスか?移住の為に手が回らなくなったか?〉

〔不明ですが、まだ付き合ってやる必要は無いと思います〕


冷やかす様な笑いの感情が流れた。


〈冷たい奴だな。確かにそうだが、ここまでの発展は例を見ない。次の天体でも優位に運ぶだろう。もう少しは付き合ってやろうではないか?〉

〔御意志に従います〕

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