第14話 相性と嫉妬

宇宙怪獣との戦いは、既に三年を迎えていたある日、ソレは現れた。


「これだよ、これがやりたかったんだよ!」


そう口にするみさき慎太郎しんたろうの興奮を、誰も止める事ができないでいた。


恐らく試作タイプなのだろう。

従来と違うソノ宇宙怪獣は一体だけで、他は今までのと大差ない。


従来タイプが、昆虫に酷似した捕縛タイプだとするならば、新しいタイプは人型に近く、それはまるで・・・・


「宇宙怪獣も、こちらの戦闘スタイルを真似てきたか?」

「いや、更に工夫もしている様だ」


ジャックとイワノフの分析は正しい。


新しいタイプは人型を真似ているだけではなく、一工夫されていた。

頭の代わりに、ショートタイプだか高出力のビーム砲を供え、右手に剣、左手に盾を持っている。

更に空中戦では脚は不要と考えたのか、そちらにも腕があり、槍と盾を持っている。


既に生物タイプではなくロボットに近い。


岬が望んでいたのは、ロボットとロボットのタイマン勝負だ!


そんな新参な相手に、岬が選んだのは合体モードΓーLPBだ。


本来は海中斬撃攻撃タイプなのだが、空中戦ができないわけでもない。

二刀流と化した両腕で、敵の上下の攻撃に対応している。


誘導ビットである小判鮫サブユニットで、従来型の雑魚をあしらい、フェニックスのサブビームで落としていく。


多少の雑魚は、なんとかなる。


「だが、そっちの思惑通りに戦ってやるものかよ!」


恐らくだが宇宙怪獣は、アースガードの体型を、むしろ下半身から攻める為に、このような形態を選んだのだろう。


隙あらば、盾の合間から頭部を狙うビーム兵器。


ロボットアニメでも定番の、面と向かって戦う形式を想定し、その上を行こうとした変則的なスタイルの新型宇宙怪獣の、更に上でアニヲタ岬は迎え撃つ。


敵の盾が、こちらの近距離用ビーム兵器や刀に対応しているとみるや、岬は従来に無い戦いかたを始めたのだ。


重力制御で、既に地球の重力の影響を受けないアースガードは、前後に開いた両足それぞれで相手の盾を押さえ付け、その左右から来る斬撃を、二本の長い刀で切り結んでいるのだ。


向きを変えてみれば、剣と盾を構えて寝ている敵の上に立っている様にも見える戦いかただ。


これは、脚を地面に着かない海中戦や空中戦用に、アースガードの身長よりも長い刀を振り回すリバイアサンだからこその戦いかただった。


「コジロー・ササキとムサシ・ミヤモトの合体技か!」


日本文化を調べ始めていたイワノフが感嘆の声をあげた。


宇宙怪獣が二枚の盾を開いてしまうと、見えた胴体にフェニックスからのサブビームが集中していく。


更には戦闘の軸線から離れてしまった敵頭部のビーム兵器は、相手を見失っている。


そうやって拮抗状態の背後からは、小判鮫の攻撃が加わって、流石の新型も、破損部分が増えていくのだ。


頭部のビーム兵器は、一回も当てる事なく、背後から破壊された。


アースガードとは違い、全身からビームを撃って、小判鮫を攻撃するなどという事までは無理な様だ。


そもそも、そんな目茶苦茶な構造とエネルギー量は、ロボットの体内に収まるものではない。


新型の疲弊も限界に来たのか、小判鮫が盾を持つ腕の一本を破壊してから、一気にバランスは崩れた。


「なかなか楽しませてくれたな」


アースガードは、新型宇宙怪獣を蹴り飛ばし、一度戦域を離脱すると合体を解除し、別形態に合体し直す。


「トドメは任せたジャック!」

「任せろ。チェンジベータ!」


合体モードBーPBLは飛行ビーム攻撃タイプで接近戦はボクシングスタイルだ。

だが、その胸部を担うベヒモス部分には、長距離砲の基部を利用した二門の中距離高出力ビームが付いている。


全身から発するサブビームが機銃扱いなら、これはミサイルに相当する兵器だ。


既に片方の盾を失った新型には、この二発の攻撃を受けきる事は出来ない。


耐えきれなかったソノ身は、半身を失いながら、地上へと落ちていった。




次の戦いは、また別の戦法で宇宙怪獣は攻めてきた。


人間形態でも敵わないと判断した宇宙怪獣は、複数の大きな盾【だけで】攻めてきたのだ。


この【盾】には裏面が無く、中距離ビーム兵器をも防ぐ高性能となっている。

勿論、リバイアサンの刀も通じない。


移動速度は遅いが、アースガードは逃げ回ってドウコウなるものでも無かった。


最終的には多数の盾に周囲を囲まれて、球体に近い多面体構造に閉じ込められる形となった。


「コイツら、何を考えているんだ?」


アースガードを飲み込んだ、盾でできた球体は、ゆっくりと成層圏を抜けて、国際宇宙ステーションなどが飛んでいた衛星低軌道へと差し掛かった。


「このまま、宇宙の果てまで運び去るつもりなのか?」


補助脳との話でも、長期間の宇宙滞在は酸素や食料などの問題から、パイロットの絶命が予想されている。


「戦闘で勝てないなら、兵糧攻めってか?」


ナポレオンも『軍隊は胃袋で行進する』と言って缶詰を開発させた。

敵の補給線を断つ事は、現代戦においても有効だ。


対抗するには、食料生産者を内包したゲリラ戦が有効だが、今回のアースガードには使えない。


「よしっ、そろそろ影響も少ないだろう」


アースガードは、球体の中で合体を解除し、新たなモードに切り替わる。


「モードゼータ、リフォーム!」


ΖーBLPは地上格闘攻撃タイプ

で遠距離攻撃はソニックダガーを使うタイプだ。


近距離戦闘に関しては、豪腕を発揮する。


「あまり使いたくは無いんだが・・・ポイントグラビティ!」


Zタイプの両手の間に、漆黒の渦が生まれる。

それを球体を作り出す盾の一つに押し当てると、盾が歪む様にキシミだした。

所謂いわゆる、人工マイクロブラックホールの様な物である。


「もう少し、出力を上げるか?」


漆黒の渦が色濃くなり、盾同士の接合部がめくれて、ひしゃげてしまった。


その穴を起点に、アースガードは盾をめくる様に剥ぎ取り、変形させていく。


「なかなか危なかったな」


この武器は、大気や地表にも影響を及ぼすので、地球の近くでは使いたくない戦法だったのだ。


この宇宙怪獣の後、特殊な宇宙怪獣の出現はなく、従来の虫型が数か月に一度来る程度になった。


宇宙怪獣の被害は激減し、人々はアースガードを英雄として絶賛した。








この様なアースガードの活躍を快く思っていないのは、先の自称金星人やイワノフの元クラスメイトばかりではなかった。

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