第13話 ソウルフードと相性
自分、ビルビッチ・イワノフは娘の為に夕食の一品を作っている。
肩身の狭い思いをさせてるかも知れない娘に、もらったり買い与えるのではなく、自分の手で何かを与えたかったのだ。
普通の名前を付けた娘はイジメられる事もなく、学校の成績は並みだ。
ただ、この仕事の為に転校しなくてはならなかったので、友達は未だできていないらしい。
先の事件以来、私服セキュリティも増えたので、娘が家にクラスメイトを呼んで親密になる事もできない。
当然、ベヒモスのパイロット情報は機密扱いになっているのだが、他者と違う点があるという事は、優越感を生む場合も有るが、必ず敵を作ってしまう。
我が家を襲おうとした武装者は、自分の元クラスメイトである事が判明しているのだ。
『父親の仕事は?』と聞かれたら、『軍用施設の建築関係』と話す様に言ってある。
詳しくは軍の機密とかで子供にも話してもらえないと言い訳も教えてある。
十分ではないが、普通の学生生活を送っていると思うが、不安なのだ。
話が反れたが、今、作っているのは『鮭とジャガイモのウハー』。
とても簡単な家庭料理だ。
「あなた、手を切らないでね?」
「ナイフの使い方は仕事で慣れているよ」
仕事とは、土木作業の方だ。
妻が横でメイン料理を作りながら、ハラハラして見ている。
作り方?大丈夫だ。
タブレットパソコンに手順を表示してある。
材料を揃え、先に鮭とジャガイモ、キャベツをひと口大に切っておく。
バターを入れた鍋に切った鮭を入れて、さっとソテーする。
『ソテー』の意味?ちゃんと調べたさ。
そこにジャガイモとキャベツとチキンブイヨンを溶かした水を加え、弱火で15分煮込む。
最後に、塩こしょうを入れてスープを味見し、カットしたパセリを浮かべればレシピ通りの完成だ。
「アレを入れてみるか?」
魚料理に合うと言われてシンタローに貰らった
「なんだが、深みが出るな」
入れ過ぎ注意と聞いているので、少し入れては味見して調整する。
とりあえずは完成だ!
いつもと違った風味のウハーは、娘にも妻にも、なかなか好評だった。
自宅待機が主な仕事になってから、家庭内の事を手伝う様になって、手先が器用に慎重にもなった気がする。
ベヒモスを手に入れてから、大きく人生が変わった。
変わったと言えば、今の戦闘方法も軍でレクチャーを受けた内容とは、別ものと言える。
初期は、実弾と光線砲の違いだけで、ヘリコプター戦闘に近いと感じていたが、レベルアップを重ねた
「重力操作で、敵を一点に集める!」
「わかった!そこを高出力ビームで狙い撃ちだな」
フェニックスとのコンビだと、こんな感じだ。
敵の数が多ければ手子摺るものだが、集めてしまえば『ひと塊』で貫ける。
相手も重力制御できる様だが、出力が違うのだ。
この方式は地表の近くでは使えないが、怪獣の目的がアースガードらしいので、成層圏の上部まで移動すれば敵はついてくる。
数の優位が無ければ、戦闘時間は短時間で済む。
「イワノフ、楽しそうだな?」
「ああ、この暮らしが続いてくれたらと思うよ」
「この暮らし?戦いの日々か?お前は戦闘狂だっけか?」
自分は、戦闘狂になってしまった訳では無いのだが・・・
「ジャックと違って、宇宙怪獣が来なくなって、このアースガードが帰ってしまったら、自分は土木作業員に逆戻りだからな。せめて、娘が成人するまでは、良い生活をさせてやりたいんだよ」
父親としては、当然の思考なんだろう。
「ははははっ。イワノフ、お前は人類の敵だな?」
「お前も子供ができれば分かるさ。子供の為ならば、全世界に嫌われようと悪になれるものだよ」
ジャックの声からは、敵対心を感じない。
「良いんじゃないか?みんなエゴイストで。その時は、俺も好き勝手にするだけさ」
最初に会った時と違い、最近のジャックは、自分の考えを押し付けなくなった。
奴も日々、変わってきたのだろうか?
因みに、一番相性が悪いのはベヒモスとリバイアサンがも知れない。
少なくとも、リバイアサンが機動を担当する時は、自分の能力を万全に使えていない気がする。
「リバイアサンの動き?下ループ以外なら、問題ないぞ」
ジャックは戦闘機パイロットなので、動きがダイバーの潜水に似ているのだろう。
旋回半径が大きいか、小さいかの違いだと言う。
それに戦闘機は、滅多に縦旋回をしない。
だが、重機オペレーターの自分には、その小さい旋回半径や縦旋回が耐えられないのだ。
逆に、二人はベヒモスの『移動しながら向きを変える』に対応できないと言う。
パワーショベルは、走りながら上部のアーム部分を旋回させるのだが、重力制御飛行なら再現が簡単だ。
後ろを追ってくる敵に、飛びながら回頭して砲を向ければ、照準は不要で楽なのに。
「いや、動物の動きじゃないから。ソレ」
「人間は錐揉み飛行や上下旋回をしないだろう!」
御互いに意見を出しつつ、自重の反省と、慣れる努力をしようとするのが、別れる直前の通例となっている。
そうして各自、自国の施設で水泳や、戦闘機の同乗、重機の運転などを行ない、共に全力が出せる様には努力をするのだ。
自分も、合体したリバイアサンの戦闘スタイルに合わせて、ボクシングジムへも通っている。
更には、先日はじめて戦闘機に乗せてもらった。
『ブラックアウト』と『レッドアウト』というものを初体験した。
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