第12話 合体ロボとソウルフード
巨大な物は、移動に時間がかかる上に、遠方からでも発見されやすい。
そう判断したのか、以後の宇宙怪獣に、先の様な【超巨大】な物は現れなかった。
だと言っても、攻めて来ないわけではない。
五百メートルから小さいものでも百メートルの飛行型宇宙怪獣が、数千単位でアースガードを襲って来ていたのだ。
合体したアースガードが70メートルクラスなので、大きさ的にも優位に見える。
それに戦術として、三体しかいないアースガードに対して、数による飽和攻撃は正論だ。
アースガードがジャック達と出会う前に、地球に対応した飛行型宇宙怪獣を大量に手配できていたなら、勝機はあったのかも知れない。
だが、アースガードは戦いなれてしまった。
圧倒的な優位を誇るアースガードだが、パイロットの疲労が著しく、昨今は、やむ無く二機づつの出撃体制をとっていた。
「今日はフェニックスとリバイアサンか!LPで、遠距離は俺が、近距離はシンタローに分担だな?」
「了解。任された」
空中戦に下半身は必要ない。
二機で合体したアースガードでも、見あった高出力の戦闘が可能だ。
リバイアサンが大刃で周囲の敵を切り裂き、
そうして戦っている全身から、数多のビーム攻撃を放つと言う常人一人には不可能な戦法をとっていたのだ。
個別に戦わないのは、同士打ちを避ける為と、小判鮫や肉体の動きとビーム攻撃がぶつからない様にリンクする為だ。
〔最適化実行中〕
「ははははっ!既にアニメを越えているな!」
見せる為の演出を含むアニメに対して、機械的に合理性を追求した形が、そこにあったのだ。
「『真実は小説よりも奇なり』ってか?」
岬は思わず、自国のコトワザを口にした。
「それにしても、我ながら良くコレだけの数を裁いてるなぁ」
照準と武器選択は自動だが、
岬も、古いアニメに一コマだけ入れられた、製作者の遊びを見付けて一喜一憂している程に、変化や動体視力には自信があったが、最近は度が増している様に感じるのだ。
「自分の反射速度が加速している?慣れだよ、慣れ。パイロットだって、最初から戦闘機の速度で戦えるわけじゃないんだぞ」
リアル戦闘機乗りのジャックの言葉は説得力がある。
だが、岬は根拠のない違和感を感じていたのだった。
「仕事も一区切りついたし、帰りにシンタローの言っていた【ジャパニーズラーメン】を御馳走しろよ!チャイニーズとは一味違うんだろう?」
「そう言えば、伍幸のラーメンも久しく食べてないな。寄ってみるか?」
そうして、合体したままのリバイアサンとフェニックスは、伊豆半島を目指した。
ラーメン伍幸は、昼食時と夕食時の間の、客が減る時間帯【アイドルタイム】で、店主が高校野球の地区予選を見ていた。
一瞬、窓の外が暗くなったが、天気がよく、午前中から既に入道雲が出ていたので、気にはしなかった。
ガラッ
「おっちゃん、食べに帰ったよ」
岬慎太郎はジャックを連れて、店の暖簾をくぐった。
「おかえり慎ちゃん。今日はリムジンで送迎かい?」
「今日は自家用だけど、運転手も居るからビールも頼むわ。ダチにも同じイツモのを」
「ちょっと待てるかい?火を落としちゃったんだ」
「うん、大丈夫だ。後は帰るだけだから」
「Is it LittleLEAGUE?」
「Yes!」
テレビを見入るジャックに岬が答えている。
「お友達は軍人さんかい?」
「ああ、ホンマ物の米軍パイロットだぜ!」
「なんか、前は防衛省とか言ってたし、慎ちゃんも軍人になっちゃったのかい?」
キッチンからチラリと覗いた岬の服装は、ジャージやアロハシャツではなく、地味なTシャツだが、元々がダイバーなので体格は良い。
「俺が自衛隊とか軍人ってガラかい?まぁ、正義のヒーローならやっても良いかなぁ~」
「慎ちゃんはアニメ好きだからねぇ。例のアースガードにでも立候補したら?」
「いいねぇ!最近はロボットに変形合体するらしいから、俺にピッタリだ!」
笑う岬に、店主も合わせて笑う。
アースガードのパイロットは機密扱いになっているので、戦闘機同様に軍人や自衛隊員がやっているものと思われている。
「ヘイッ御待ち!チャーシューサービスしといたからね」
「サンキュー!じゃあ、いただきます」
手を合わせる岬を真似て、ジャックも手を合わせ、割り箸を頑張って割っていた。
約束通り、ちゃんと食べに来た岬に、店主は目を細めながらビールをグラスに注いでいる。
「どうだい、ジャック?このラーメンが俺の好物なんだよ」
「アメリカの中華街とも味が違うな。旨いが、もっと味が濃い方が好みかな」
この会話が英語であり、店主に聞き取れてないことを横目で確認して、岬は苦笑いをした。
「妥当な評価だよ。日本のラーメンは、日本人好みになってるからね。ラーメン発祥の中国人にもニセ物扱いされる事があるんだ」
岬がジャック達と一緒に居たアラスカの基地内にも、中華料理店があり、三人で一緒に入った事があるが、逆に岬が納得していない事が思い出されていた。
「良いんじゃないか?ソウルフードは、それぞれだ。イワノフが持ってきた缶詰を思い出せよシンタロー」
「あれか!爆発する缶詰な・・」
それは、ロシアなら有名なシュールストレミングだ。
日本のクサヤを上回るとも言われる異臭に、以後の持ち込みを禁止された、いわく付きのソウルフードだった。
「シンタロー達と出会って、違う事を否定し合うんじゃなくて、住み分けるって事を学んだよ」
「よく見れば、リバイアサン達も、陸・海・空って住み分けてるしな!」
「おおっ、本当だな!」
笑いながらラーメンを食べる二人に、話の内容が判らずとも、店主に笑顔がこぼれる。
「おっちゃん、美味しかったよ」
「Very Good!」
ジャックも御世辞をかましている。
「あぁ、また来てくれよ」
「必ず来るよ」
出ていく二人に、どんな自家用車で来たのかと興味をそそられた店主は、二人の後を追って外へ出た。
「ジープか?ハマーか?あれっ?車が無いじゃないか」
足もとを動く影に、頭上を見上げれば、三メートル程の物体が上昇していた。
その先には・・・・
「アースガード?なんで、こんな所に?」
テレビで見た事のあるアースガードの六形態の一つらしい物が浮いてる。
上昇する流線型の物体を収納すると、アースガードは二つに分離して、それぞれ別方向へと飛んでいってしまった。
「慎ちゃん?まさかね・・・」
店主は、しばらく口を開けたまま、日本に所属すると言う青いアースガードの行く先を眺めていた。
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