第11話 巨大宇宙怪獣と合体ロボ
ピルビッチ・イワノフは、娘と自宅でアニメを見ていた。
特別支給された給金でタブレット型パソコンを買い、アースガードの岬にもらったDVDをベヒモスに吹き替えてもらった物だ。
他には小型の携帯電話を購入した。
ロシアでは、積雪の為に屋外での携帯電話使用が不便になる場所が多いが、これは通話用ではない。
ビービービー
その携帯電話の呼び出し音が響く。
ベヒモスからのスクランブルコールだ。
「ダディは、御仕事が入っちゃった。残念だけど、後はマミーと見てね!」
彼は、妻にアイコンタクトを取ると、コートを着てガレージに向かう。
ガレージには、軍から支給されたバイクが有り、乗せておいたヘルメットを被るとバイクを外に出し、リモコンで扉を閉めて走り出す。
軍の私服セキュリティが、車の中から視線だけを動かしている。
ベヒモスから軍に連絡が行っている様で、後を追ってくる形跡はない。
それにベヒモスが、既に上空に来ているので、理解しているのだろう。
近くの公園には、長さ五百メートル程の幅広道路が有り、通常は市民の散歩コースになっている。
だが、ベヒモスが接近するとアラームと回転灯が作動して住民が道路から避難するのだ。
誰も居なくなった道路をイワノフのバイクが走ると、車体が不自然に浮かび上がっていく。
道路脇に避難した住民達は、上空に浮かぶベヒモスと、労働者階級から出世した新たな英雄を、希望と共に見送るのだ。
敬礼している子供もまで居る。
まぁ、中には不機嫌な視線を送る者も居るが。
住民の見ている前で、ベヒモスは、バイクごとイワノフを呑み込むと、北の空へと消えて行った。
既に重力制御が自由自在なベヒモスは、脆い大地でなければ、任意の物を持ち上げるのも自在だ。
自身も重力制御を使って浮遊して加減速も自在となっている。
全体的に四角い箱にも見えるベヒモスは、遠目には風船かと思うだろう。
象の鼻にあたるパワーアームは折り畳まれ、二本の主砲は内部に食い込んで僅かな突起しか見えない。
そんなベヒモスが向かったのは、北極海だ。
「怪獣は二千五百マイルが二匹ぃ?」
〔現在は、まだ月軌道の外ですが、地球に接近中です〕
イワノフには、大きさの見当がつかなかったが、とてつもなく大きい事は分かった。
ベヒモスの操縦席は、既に重機のソレではない。
全天型モニターで、周囲が丸ごと見える中に浮かんでいる感じだ。
身体に重なるベヒモスの立体映像。
更に考えた通りに動く思考制御と、半ばパワードスーツに近いだろう。
周囲のモニターには、様々な情報が表示され、ピックアップ画面には、クラゲの様な怪獣が写っていた。
「ベヒモスの主砲で撃ち落とせる大きさなのか?」
〔届きますが、パワー不足の為に致命傷には及ばないでしょう。剥がれた破片が地上に被害をもたらす可能性が大〕
破片が自宅に落ちたりしたら、元も子もない。
いや、妻も娘も危ない。
「解決策は?」
〔パワー不足を補う為に、応援を呼んでいます。砲は高出力対応に改良済みなので、後は他の二機からエネルギー供給を受ければ可能です〕
「応援?それで北極海か?」
〔迎撃位置も兼ねています〕
イワノフは、アラスカでの雑談を思い出した。
「まさか、アレをやるのか?」
「そうさ!合体ロボット変形をやるのさ」
帰ってきたのは、ジャックの声だった。
モニターに赤い物体が写っている。
「・・・・合体か!」
イワノフが消沈していると、合体パターンが表示された。
▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼
合体モード
AーPLB
飛行ビーム攻撃タイプ
接近戦は刀を使う
BーPBL
飛行ビーム攻撃タイプ
接近戦はボクシングスタイル
ΓーLPB
海中斬撃攻撃タイプ
遠距離攻撃は誘導ビット
ΔーLBP
海中斬撃攻撃タイプ
遠距離攻撃はソニックショット
ΕーBPL
地上格闘攻撃タイプ
遠距離攻撃は長距離砲
ΖーBLP
地上格闘攻撃タイプ
遠距離攻撃はソニックダガー
▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲
「悔しいが、最初の合体は
海中からリバイアサンが空へと上ってくる。
「んじゃ、合体~アースガード
ジャックの声が焦っている。
〔申し訳ありませんが、時間がありませんので〕
補助脳の声が響き、モニターの【ΕーBPL】が点滅する。
「
イワノフがモニターを触ると、三機のアースガードが自動で変形と合体を開始した。
【BPL】は合体の順番らしく、上からベヒモス、フェニックス、リバイアサンの順番で合体をしている。
肩に二本の長い砲を背負った人型ロボットが完成した。
「味気ない合体シ~ン」
岬の悲しそうな声が響く。
〔エネルギー圧縮開始、モード
合体したアースガードが向きを変え、宇宙怪獣の一体が照準表示される。
水色のレベルメーターが上昇していき、赤く光って点滅した。
「行けっ!」
二本の砲から、幾つもの閃光が走る。
物質弾の様な反動は無いが、撃つ度に高周波の音が響いた。
〔もう一体も〕
アースガードが向きを変え、再びレベルメーターが上がり始める。
「コイツもだ!」
再び連射され、閃光が伸びる。
モニターには、幾つもの破片に別れて小さくなっていく宇宙怪獣が、映し出されている。
地球から離れていくのだろう。
「アクションがぁ~掛け声がぁ~」
岬の声には悲壮感が漂う。
敵を倒したイワノフは、モニターに、いまだ点滅している表示が有るのに気付いた。
「サブレーザー?」
ただ、点滅しているだけの表示に触ってみた。
合体したアースガードの胸辺りから、幾つかの光が伸びる。
「どこを狙った?」
展開された照準器に映し出されたのは、イワノフの家だった。
「ベヒモス、狂ったか?」
イワノフは、急いでロシアにある自宅へとアースガードを向かわせる。
補助脳が何かを言っているが、気が動転していて聞き取れない。
合体での推力は、慣性制御でも消しきれなかったらしく、全身にGが掛かって意識が飛びそうになる。
それに耐えて着いた自宅は、特に異常が無かった。
家の周辺に、幾つかの焼け焦げた跡が見える。
「無事だったのか・・・・」
イワノフが安堵の声をあげると、コックピット内に無線らしい声が響いた。
『光の直撃を受けて死亡したのは、いずれも四十代男性。全員が武装しているか、爆発物を所持しているもよう。テロ行為の可能性も有り』
『了解、処理班を向かわせる。で、原因は分かるか?』
『たぶん、アースガードだろう。三色の巨大ロボットが浮いている』
軍の私服セキュリティの通信だろう。
クローズアップすると、焼け焦げの近くに居るのは、見たことのある男性達だ。
「済まなかった。家族を守ってくれたのか?」
〔貴方の家族は、私の家族ですから。狙撃位置が、地球の反対側だったら、こうは行かなかったでしょう。発見できて良かった〕
騒ぎで家から出てきた妻子の、無事な姿も見える。
「無事で良かったな!」
「早く家族の元へ行ってやれ」
チームメイトの二人は、そう言うと、合体を解除して飛びさって行った。
残ったベヒモスからイワノフとバイクが、ゆっくりと降りてくる。
「ビル!」
「ダディ」
「大丈夫だ。悪い奴からベヒモスが守ってくれたんだ」
抱き合ったまま空を見上げる三人に、ベヒモスはパワーアームを手の様に振りながら、基地へと飛び去っていった。
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