第10話 太陽と巨大宇宙怪獣

照り付ける太陽光の元、一度ならず、二度までも地球を襲った宇宙怪獣について調査された研究チームの報告書は、大統領の屋外公開演説会と言う形で、公表された。


「この様に、不明瞭な事ばかりですが、我々は自身を守る為に、迫り来る宇宙怪獣と戦わなくてはなりません」


大統領の締め括りの言葉の後に、客席で立ち上がる姿があった。


「君達は間違っている」


声をあげたのは、金髪の白人女性だ。


「同じ太陽系の同胞たる地球人よ。私は金星から来た。現在、この太陽系は外宇宙からの侵略にさらされている。」


〈あれは、女神教の教祖です〉


大統領のイヤホンに、補佐官から無線が入った。

『公開』と言っても、会場入りや付近に来れる人間は、身元調査とボディチェックを受けている。

実際は『公開』ではないこの場所に、指名手配されている人物が入れる筈がなかった。


「金星人だと?我々も馬鹿ではない。灼熱の惑星に生物が住めるものか!それに外宇宙から多くの生物が来ているのは知っている。御前は侵略者側か?」


女性の周りからは人が退き、丸く開けた場所に残った彼女に、大統領は言葉を返した。


「信じて貰うのは難しいだろうが、全てを企んでいるのは、君達が【アースガード】と呼んでいる三つの存在だ。抵抗せずに、我々に引き渡してもらいたい」


〈武装した私服警備員を向かわせています。もう少し時間を稼いで下さい〉


「アレを渡せと?我々に怪獣の驚異に屈して滅べと言うのか?」


金星人を名のる女性は、左右に首を振った。


「君達が【宇宙怪獣】と呼んでいる存在は、地球人の敵ではない。アースガードと敵対する存在だ」


そう言って彼女が指差す空に、昼間の月の様に薄っすらと、異形の姿が浮かびあがった。

若干の模様がある丸い姿は、クラゲに似ていると言える。

大きさは、想像もできない。


〈大統領、衛星軌道に超巨大な宇宙怪獣が多数確認されました〉

『見えてるよ。出撃を許可する』


大統領は演説マイクから少し離れ、考える素振りを見せて、手首に仕込んだ通信機で指示を出した。


会場には、航空戦力による襲撃に備えて、軍の通信班も控えている。


「さて、金星人君。君達には【嘘】と言う概念は理解出きるかね?」


「言語と、その認識は完了している。他者や自分に偽の情報を流して、局部的な利益を得る為の行為だろう?大統領」


「我々は宇宙怪獣から多大な被害を受け、アースガードは我々の命令に逆らった事はない。我々は口先だけの正義を掲げて巨大な恐怖で強いる者を信じはしない。本性は行動に出るものだ」


その言葉を聞いていたのか、地平から、雷の様な閃光が幾つも走り、空に映る宇宙怪獣の姿が、チリジリになって消えて行く。


「馬鹿な事をするな。その行為は間違っている」


金星人が空を見上げている間に、警備員が駆け寄り、彼女を拘束して手錠をかけた。

数人は銃も構えている。


「おとなしくしろ!」

「無駄な事を・・・」


金星人を名のる女性は、皆の見ている前で、陽炎の様に消えていく。

後には手錠だけが残された。


「消えた?狂信者ではなく、本物の宇宙人なのか?金星人だと?」

「大統領、危険です。ただちに移動しましょう」


シークレットサービスが、大統領を囲む様にして、バックヤードに待機していた専用車へと連れていく。


「兎に角、知性体が関わっている事に変わりはない。【女神教】が宇宙怪獣の仲間だと公表し、関わった者全員を拘束しろ。洗脳や武器の提供を受けているかもしれない。抵抗する様なら発砲も許可する」


大統領の指示は熾烈を極めていた。

自身の前に非合法に現れたのだ。気分が良い訳が無かった。


助手席で事務官が、電話による情報収集を行っている。


「報告が入りました。先程の宇宙怪獣の大きさは、推定で二千五百マイル/約四千キロで、地球直径の三割程だそうです」

「三割だと?そのサイズが、脅し以外の何だと言うんだ?」


宇宙人からすれば、近付かないで姿を見せるには、この様な方法しか無かったのかもしれない。

だが、思いは正しく伝わらない物だ。


「現れた巨大宇宙怪獣二体は、既にアースガード三体の協力で殲滅され、地球への影響は軽微だそうです」

「流石だな。アースガードの待遇を更に良くしてやってくれ」

「承知致しました、大統領」


大統領専用車は、ホワイトハウスの地下駐車場へと入っていった。




----------




大西洋海上に、少し大きめのクルーザーシップが浮かんでいる。


太陽の光を浴びながら、水着姿の金髪美人が、シートでトロピカルドリンクを飲んでいた。


「国のトップまでやっている者が、なぜ理解できないのか?」


表情が温和だが、言葉の内容は困惑している。


「やはり、まだ文化レベルが低いのが原因だろう?想定されていた事だ」


操船室から、制服姿の女性が現れて、言葉を加えた。


「しかし、アレさえも一撃で倒すとは、敵の進化が著しいのではないか?地球側の強化に伴い、太陽側も凶悪さを増している様で、侵食が加速しているとの連絡が来ている」


船室から来たのはサマードレスの女性。


彼女達こそ、【女神教】で女神と呼ばれている者達で、三人とも同じ風貌をしている。


「しかし、厄介な星に取り憑いたものだ」

「一応はガードを固めていたのだが、初期からの技術力とエネルギー量の違いか?想定されていたが、こうも脆いとは!」


彼女達の力とて万能ではない。


「本当に巧くカムフラージュしているよ。現状は、ここから観測不可能だからな」

「この星に居残る為には、奴等の信頼を得るのが、最良と判断したのだろう」

「破壊はできないまでも、太陽系の外まで追い払えれば勝機もあったが・・・」

「太陽系外と言えば、既に移住を始めた者もあるのだろう?」

「それも想定されていた事だが」


彼女達は、表情を変えない。

それは、その姿が仮りそめの物であるからだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る