第9話 蟲達と太陽
怪獣と太陽の関係に疑問を持ったのは、補助脳だけではなかった。
「材質などの差異は有るが、怪獣の形態は昆虫に近い。だが、これは逆に我々の世界に近い存在だと言う判断ができる」
「つまりは太陽系内の存在だと?」
「可能性が大きいとは言えるでしょう」
天文学者と生物学者などからなる研究チームは、定期的に国連関係者に報告会を行っている。
「その太陽だが、黒点の数が異様に増大している上に、フレアも多く観測されている。太陽光の為に、因果関係までは掴めないが、怪獣達が関係しているかも知れない」
「それは地球に、どのような影響が?」
「黒点の増大は、寒冷化など異常気象の原因と言われています。太陽フレアの影響は通信障害、電気変圧器の火災なでが過去に起きている様です」
「インフラの危機では無いですか?」
電力は、通信や水道、ガスなどをコントロールしている要だ。
各国から来た事務官達が唸りをあげる。
「NATO軍では、核兵器の一部を飛来する怪獣の宇宙迎撃用に準備していますが、敵の本拠地が太陽系内ならば、そちらを狙った方が良いかも知れませんな?」
地球内では頻繁に使うことが
「確か流星群は、土星や木星方面から来るのでしたな?調査衛星を飛ばしては?」
「ロケットや衛星が、一年やそこらで作れる訳がないでしょう。アースガードは宇宙へは行けないのですか?」
「アースガードならば可能かも知れませんが、木星まででも数ヵ月から数年掛かるのですよ。パイロットの生命維持が無理でしょう」
非公式だが、アースガードはパイロットの交代が出来ない。
会議に参加している米軍関係者達は、アースガードの宇宙行きを阻止する意向を秘かに固めた。
パイロットが死ねば、地球は防衛の要を一つ失う事となるのだ。
報告会で判明したのは『不明瞭で八方塞がり』と言う現実だ。
「判明しているのは、怪獣達は太陽の異常と関係があるらしい事だけでしょう。怪獣達が原因で異常が起きているのか、異常が起きているから怪獣達が調整しようとしているのか分かりませんが?」
善か悪か分からないと言う事だ。
「どちらにしても怪獣達は、なぜ地球にも飛来して来るのでしょう?最初は太陽への軌道修正のミスだとしても、先日も飛来したのでしょう?」
「一つの意見としては、たまたま地球で怪獣達を倒せる存在を認知してしまったので、自衛の為に敵対していると言うものもあります」
「でも、アースガードは、怪獣達の本来の目的である『太陽への干渉』には関わっていませんよね?」
「太陽へと向かっている総数と比較すると、単なる威嚇かも知れませんが」
観測されている流星群は、数億以上ある。
「アースガードを見て、地球文明が『太陽への干渉』を妨害すると懸念しているのかも知れませんね?」
「そう考えると、怪獣達が太陽異常の原因と見えるが、彼等も太陽系内の存在なのだろう?太陽の異常は死活問題になるのではないか?」
あくまで『可能性』ばかりで、明確な事が少なすぎる。
これでは、何も報告が出来ないと、各機関の事務官達は頭を抱えた。
そんな説明会でも、太陽や流星群に気を取られ、天文学者達が見落としている物があった。
太陽光で観測が困難ではあったが、太陽を挟んで地球と反対側に位置する惑星達の明るさが、激減していたのだ。
人類が、この原因を知るのは、更に後の話になる。
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太陽は、太陽系内の多くに恩恵を与えている。
勿論、地球や地球人が受けている恩恵は計り知れない。
だが、光が当たれば影ができる。
ましてや、本来は光るべきでない所に強い光が発生すれば、光量は変わらなくても相対的に影となる所が発生する。
「太陽は、皆の頭上で等しく恩恵を与えている。違いが出てくるとすれば、個々の努力の賜物ではないですか?」
「そうだ。勉強もできず、協調性も無いビッチ野郎が中佐だなんて、間違ってやがる」
実際に、現実の世界で最優先されるのは、努力や環境ではなく【運】なのだが、それを認めたくない者も居る。
特に、努力によって上位の地位を勝ち取ったと思っている者は、【運】を信じる事が許せない。
だか、同時に【運】によって地位を得る物語も好まれている。
ドラマや小説、スポーツでは、出会いや運によって異例の出世をする主人公は多い。
アメリカンドリームやシンデレラストーリーとして大衆に好まれ、理想にされる事も多い。
しかし、その様な成功者は、実際には深い嫉妬や恨みの対象であり、陰湿な嫌がらせや犯罪行為の対象にされる事もあるのだ。
当然、先のポジティブなイメージを守る為に隠蔽され、故意に無視される場合が大半だが、現実にネガティブな存在がなくなっているわけではない。
「その不条理を正す為の御手伝いを致しましょう。我々【女神教】としては、パイロットに恨みは有りませんが、結果が同じになるなら
金髪美人の誘いにロシア兵士の男は、心が動いていた。
「どうしますか?本人を襲うのは、警備の関係上難しいでしょうが、家族なら可能性が高いのでは?」
「家族を失い、失望の沼に沈むのを眺めるのも一興だな」
美女に付き従って来た、営業マン風の男が、分厚い鞄から、何枚かの紙を選び出して男の目の前に広げた。
「こちらの紙が、ビルビッチ・イワノフ氏の住所、家族構成、交友関係、行動パターン、セキュリティ状況。二枚目以降が、家族殺害のプランと必要機材の保管場所です。御好きな様に御利用下さい。万が一の時は、その倉庫に避難して下さっても結構ですよ」
男は、渡された書類に目を通して、疑問に思う。
「俺の私怨に、どうして、ここまでしてくれるんだ?」
男も、自分の感情が【嫉妬】である事は理解している。
「信じてくれなくても良いですが、我々は地球を救う為に活動しているのです。例え非合法で非人道的に見える方法でも、歴史が正義だと証明してくれる筈です」
女や、その付き添いの男の瞳は、信念の光で満ちていた。
「まぁ、好意に甘えて使わせてもらうよ。【女神教】の名前を出しても、誰も信じてくれないだろうしな」
ロシアでは、基本的に宗教を禁じている。
集会も規制されている。
実際に【女神教】の活動痕跡は、一切が見つかっていないのだ。
女神教の活動は、主に米日露以外の国での展開が著しい。
「では、
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