第3話 落し物と怪物駆除
ジャックは、キャノピー越しに見える、卵の変形する様をみて声を漏らした。
「これは、イーグルか?」
ダグラス社、現在のボーイング社製の戦闘機F15。
通称は【イーグル】
最新鋭機ではなく廃盤の古参だが、ジャックが乗り慣れた機体だ。
卵の姿は、その様に見えた。
「しかし、全長30メートルのイーグルか?笑うしかないな」
乾いた笑いがこぼれる。
試しにコックピットのイグニッションをオンにすると、聞きなれた起動音が聞こえる。
「バックアップも無しに起動するのか?エンジンの振動が無いのが不気味だな」
計器の表示は、正常な起動を示している。
ジャックの身体は、既にGスーツに包まれており、シートベルトで固定されていた。
発進準備が整った彼は前方を見て、大変な失念をしていた事に気が付いた。
「ヤバイ!滑走路が無いじゃないか!」
見る限り、機体は可能な限り忠実にF15を再現している。
彼からは見えないが、大きさ以外の違和感は、コックピットと全体のバランスくらいだろう。
「飛べないじゃないか?こんな事ならハリアーにでもするんだった」
ハリアーとは、英国海軍が開発した垂直離発着ができる超音速戦闘機だ。
米軍にもハリアー2が導入され、その後F35Bに後継を譲ったが、ジャックはF35を直接見た事はないが、ハリアー2はコックピットに乗せてもらった事もある。
〔最適化を実行〕
「何なんだ?さっきから、宇宙人とは違う声が」
ヘルメット内に響く声に、ジャックは再び注意を向けた。
〔補助脳のアナウンス。案内、解説、補助などのシステム〕
「【補助脳】?確かに、そんな話が有ったが」
ジャックは、コックピット内を見回す。
イーグルの模造品に見えるが、これは宇宙人のもたらしたハイテクなのだ。
たぶん、本来は兵器でもないのだろう。
「これで、あの怪物を倒せるか?」
〔可能。ただし、機銃やミサイルの様な物質弾は使えず、体当たりやビーム兵器の代用になります〕
「ハイテクじゃないか!弾切れの心配は無しか」
実戦では弾切れが命を左右する。
飛行中の戦闘機には、弾薬の補充はできないので、残弾管理は死活問題である。
そんな目の前で、コックピットにハリアー特有の垂直離発着用レバーが【生えて】きた。
レバーを動かすと、機体の側面に噴射をうかがわせる陽炎が上がる。
「おっと、兵士に被害は出てないかな?」
共にやって来た兵員を探すと、既にクレーターの外苑部まで退避し、無線機で報告しているのが見えた。
「無線機は使えるのか?」
マスクをいじると、軍用無線の会話が流れてきた。
兵士が一人、謎の球体に飲み込まれ、球体が戦闘機に変形した事が、繰り返し報告されている。
相手はカーネル少将らしい。
「こちらはジャック・ジャクソン少佐です。このデカイイーグルは、小官が操作しております」
「無事なのか?ジャクソン少佐。ソレは何なのだ?」
「詳しくは、後で報告致しますが、これで怪物達を一掃できる様です。これから開始します」
無線を聞いた兵士達が、物陰に身を隠す。
スロットルを引くと、大規模な噴射と共に、機体はゆっくりと高度を上げていった。
通常は、浮いたらすぐに前進するのだが、この巨体の推力で何処まで離れてしまうか分からない。
可能な限り高度をあげると、ホバリングの状況を保ちながら、巨大F15は期首をやや下に向けた。
長時間の垂直上昇は、燃料を大量に消耗するが、燃料計は満タンを示したままだ。
【怪物】を敵として認識しているらしく、レーダー画面には複数の点が表示されている。
肉眼では遠方の相手しか見えないが、その幾つかがレーダーの表示と一致しているので、間違いないだろう。
そして、レーダー越しに見た怪物には、ロックオンマークが付いている。
通常は、ターゲットモニター越しに、前方の
トリガーを引くと、翼の各部から光が走り、レーダーのターゲットマークが消えていく。
前方だけでなく、後方のマークまでも同時に消えていく。
「やったのか?」
ジャクソンは垂直上昇レバーを操作し、ゆっくりと機体を前方へと移動する。
とは言っても、ほぼホバリング状態だ。
基地を中心に、レーダーのマークを潰す様に旋回しながら、怪物を倒していく。
あらかた、周辺のターゲットマークを消し去ったのを確認して、ジャックは軍の滑走路へと向かった。
そこには、バラバラになった怪物の死体が転がっている。
「こちらジャック・ジャクソン少佐だ。これからA番滑走路へと着陸する。撃ち落とすなよ」
「こちら管制。無線は聞いて指示は受けている。本当にJ・Jなのか?」
「本物だよ。その声はジェフリーか?先月の飲み会の事を嫁さんにばらされたいか?」
「ここで撃ち落として証拠隠滅って手もあるが、その前に降りられるのか?」
ジャックは、通常の着陸をしようとしていたが、考えれば機体は通常の数倍あるので滑走路の長さが足りない上に、
「また、垂直離発着するしかないのか!」
ジャックはグリップを引き上げ、高度を戻すと垂直離発着レバーを操作する。
頭で分かっても実は、この操作こそ、一番難しかったりするのだ。
多くは、ここで失速して死亡する。
〔操作補助します〕
補助脳のアナウンスが流れ、レバーが強制的に動き、少しの揺れの後に、ゆっくりと着地していく。
「ふうっ。命拾いしたよ」
〔・・・・・・・〕
感謝された機械は、反応に戸惑っているのだろう。
思えばジャックも機械に礼をした事など無かった。
シェルターのドアから、何人もの兵士が着陸した機体に駆け寄って来るのが見える。
「え~と、これ、どうやって降りれば良いのかな?」
〔イジェクトします〕
困惑していると、コックピットの前面が競り上がり、パイロットシートは地面に着いていた。
「どう言う構造になっているんだ?コレ!」
シートから立ち上がると、ヘルメットもGスーツもシートに貼り付く様に残っており、シートは戦闘機の下部に引き込まれる様に収納されていく。
駆け寄ってきた同僚は、ジャックの身体を叩いて確認し、整備士達は滑走路に立つ車輪の辺りを探り回り、他の者達は、その巨大な機体を見上げていた。
「すまない。先ずは将軍に報告へ行かせてくれ」
根掘り葉掘り聞きたがる同僚を振り切り、ジャックはシェルターへと向かった。
将軍の指示なのか、MPがジャックの前後に立って道を切り開いていく。
途中で振り返るジャックの目に映ったのは、普通に巨大なF15だった。
「あれっ?コックピットが小さくないな!」
想像していたアンバランスな形状と違う事に疑問も覚えたが、MPに急かされて、ジャックはシェルターの入り口へと入って行った。
その後の密室での報告には、怪物殲滅よりも長い、二時間の時間を要するとは、この時のジャックも考えては居なかった。
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