第2話 怪物と落し物
Cゲート付近では、先発した調査班が瓦礫を排除し、負傷者を運んでいた。
現場は一部から外光が射し込んでいて、明るいが作業は
調査班は外の怪物の存在など知るよしもなく、突然に武装して駆け込んでくる兵員に、目を丸くして手を止めてしまった。
「要救助者確保を優先し、至急に奥へと退避しろ!これは最優先だ」
怪我人達を
同行した副官の指示で、調査班は有無を言わせず、シェルターの奥へと追いやられた。
外界へと繋がる穴の先は、巨大なクレーターの一部に繋がっていた。
「これは、アレの卵なのか?」
武装兵が降り立った隕石のクレーター中央に有ったのは、白くて楕円形をした巨大な卵の様な物だ。
これが【隕石】の正体らしいが、外観が焼けた形跡はなく、サイズは凡そ三十メートル程もある。
一見して、先程の怪物の卵と言えなくもない。
ジャックは自動小銃のグリップで、その物体を小突いてみたが、金属の様な固い音が帰ってくる。
「これは、本当に卵なのか?」
陶器の様な音を期待していたジャックは、小銃を下げて、物体に直接触れようとした。
しかしジャックの手は、水面に吸い込まれる様に物体に沈み込んでしまう。
「なっ、何だぁ?」
動揺した彼の身体は、そのまま物体の中へと引き込まれてしまった。
次に目覚めた時、ジャックは光の中に居た。
思い起こせば、激しい頭痛で気を失った様だ。
「ここは、何処だ?」
〈ココハ、ドコダ〉
自分の声が変調して木霊の様に帰ってきた。
〈ココハ、中だ〉
続いて発していない声が帰ってきた。
そう言えば、あの白い卵の中に引き込まれた記憶はある。
「誰か居るのか?」
〈遠クカラ、声だけ届けている〉
問いに対して、すぐに返答があった。
「お前は誰だ?」
〈『ゲンゴ解析ジッコウ中。アクセス手段問題なし』他の星から来た存在〉
『宇宙人?』とジャックは思った。
〈宇宙人?『解析ジッコウ中』〉
相手は、ジャックが口にしていない言葉を返してきたので、彼は一瞬戸惑った。
「心を読むのか?」
〈心?言語中枢?思考?多重構造?本音?建前?感情?『解析ジッコウ中』〉
しばらく、会話が途切れた。
「何をしたんだ?」
〈申し訳ない。アクセス方法を間違えた様だ〉
恐らく【宇宙人】はジャックの脳内を探って、言語や意思を探って、コミニュケーションを取っているのだろう。
記憶や感情を探られるのは不快だが、ジャックは、そんなプライベートな事など、今は気にしていなかった。
「これは何だ?あの生物は?」
〈順に説明しよう。君達が体験した様に、地球は宇宙からの生命体に脅かされている〉
「あの、怪物の事か?」
記憶を覗いたのなら、怪物と遭遇した事も理解したのだろう。
こちらの都合はお見通しと言う訳だ。
〈怪物・・・そうだな。我々は知性体を求めて宇宙を旅する者だ。だが地球人は、残念な事に我々の接触条件には合格していない〉
「接触しない?じゃあ、助けてくれないのか?」
〈そうしてやりたい気持ちもあるのだが、部外者である我々が、勝手に他の知性体を救う事は文明への干渉にあたってしまうのだ〉
SFでは
暴力的な原生生物に、惑星破壊技術を与える様なマネをしないためだ。
自己開発したなら兎も角、先々で援助が他の星々に不利益をもたらした場合、援助した者の責任も問われるのだろう。
しかし、頭で分かっても窮地においては、感情が先にたつ。
「見殺しかよ!」
〈そこで苦肉の策として、『我々が落とした【道具】で現地の知性体が勝手に自衛する』と言う裏技を使う事にした。限定条件として、【道具】は君達に解析不能だし、用事か済めば自動帰投する〉
「道具?まさか、この卵が?」
〈そうだ。願わくは君達が、この【道具】で地球を救って欲しいが、怪物の件が片付くか、君達が滅びるまで、回収はしない。好きに使ってくれたまえ〉
「それも、干渉になるんじゃないのか?」
〈あくまで『事故扱い』なのだが君が嫌なら、この【道具】を使わなければ良いだけだ。どのみち我々には【戦い方】と言うものが分からない。これを使い、君の意思で戦って助かるか?このまま自力で戦うか好きにしたまえ〉
【宇宙人】らしき声は、苦肉の策を行った事で、自らの『良心』を納得させるつもりなのだろう。
ジャックは思案した。
怪物は自動小銃で、あの程度なのだ。
飛んでいる戦闘機の機銃が、数発当たっても、結果は見えている。
爆撃なら大丈夫だろうが、数と補給が限られるのをパイロットは承知している。
【隕石】は、世界中に落ちたと基地では知らされた。
基地周辺の状況から考えても世界中で、かなりの被害が出ているだろう。
人類の力で、どこまでできるだろうか?
それに対して、宇宙人が怪物退治の為に用意した物ならば、まだ希望が持てるのではないかと。
しかし、
「対価は何だ?」
〈理解できると思うが、これは我々の【自己満足】だ。それに君達は【事故で紛失してしまった物で得た利益】から報酬を求めるのかね?〉
【宇宙人】が、この場に居るなら兎も角、相手は『ここに居ない、落し物の所在を知らない』事になっているらしい。
話の筋は、ジャックを納得させるだけのものがある。
何とも良心的な相手の様だ。
「では、【拾った落し物】を勝手に使わせてもらおう。と、言っても使い方が分からないが」
〈大丈夫だ。それには、簡単な【補助脳】が付いている。ある程度なら君が望む力、望む機能が顕現するだろう〉
ジャックが、これに取り込まれたのは、まさに偶然だ。
戦闘機パイロットだけあって、真っ先に突っ込む性格が、仇になったとも言える。
既に、ジャックの脳や身体を調べたらしく、不快感は無い。
「思うままに成るのか?」
そう口にして、ジャックが思い求めたのは、怪物を倒せる力と、乗り慣れた戦闘機だった。
〔初期化開始〕
「何だ?今の声は!」
初めて聞く声に、ジャックは驚いて周りを見回す。
彼の周りの白い空間が色と形をを持ち始め、戦闘機のコックピットへと変形を始めた。
〈選択したか!戦う準備が始まった様だな〉
「これが武器に成るのか?」
眼前にキャノピーが現れ、外の風景が見えてくる。
白い卵を触っていた兵員達が、外観の変化に戸惑い、離れる姿がジャックの視界に入った。
〈では、頑張りたまえ。もう会う事は無いだろう〉
「ありがとう。勝手に使わせてもらうよ。俺はジャック・ジャクソン。J・Jと呼ばれている。あんたは?」
〈・・・・・・・・〉
どうやら、宇宙人との通信は切れた様だ。
それとも【落とし主】や【拾得者】の素性は知らない方が良い為か?
「名乗らない方が良かったのかも知れないな」
ジャックは今更ながら、最後の会話は相手に迷惑をかけるものかもしれないと反省した。
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