巨大ロボット アースガード

二合 富由美(ふあい ふゆみ)

第1話 流星群と怪物

数ヶ月前から各地の天文台では、天文学史上初の現象を観測していた。


従来では観測された事のない規模の小惑星群が太陽に向かって落ちていく現象だ。


それらは、ほとんどが一キロメートル以下と言う小さい物で、小型の望遠鏡では見る事もできず、地球への影響は皆無なので特に騒がれる事もなく、天文学者の研究対象でしかなかった。


影響があるとすれば、その落下のせいか太陽黒点が例年より多い点だ。


「これらは、従来発見されていたトロイヤ群やヒルダ群からの物ではなく、冥王星より遠くのカイパーベルトから飛来した物と思われる。ただ、同じくカイパーベルトから飛来するハレー彗星の様な氷型天体でない点が解せない」


木星内外の小惑星群は多くの天文台で、常時観測されている。

その観測結果が、未発見の小惑星群に対して下した判断は、この様な物だった。


そして原因については、カイパーベルトに接触した外宇宙の天体の影響や、未知の大規模周期彗星群など諸説あげられたが、どれも決め手に欠けている。


ただ、傾向としては、木星や土星の重力の影響を受けた物が多いらしく、その軌道付近から飛来するケースが多いと言う事だった。



だが、そんなノンビリしていた研究も、ある日を境に激変する。


事もあろうか、太陽重力に飲み込まれなかったらしい小惑星群の一団が、太陽方向から地球へ向かっている事が観測されたのである。


この情報は、世界中を1910年のハレー彗星大接近以来のパニックにおとしいれた。


地下シェルターを完備している国では、国民の移動が始まり、無い国や間に合わない地方では、鉱山跡を急遽シェルターへと改造する行為が行われた。

街の地下街は簡易避難所となって横になる広さもない程に混み合っていった。


観測された小惑星のサイズから、かつて恐竜を滅ぼした様な被害は無いと判断されたが、全く問題ないわけではない。

落下地点の半径数百メートルは建物が崩壊すると思われたからだ。


予報されたその日は、実際に多くの国で流星群が観測された。


そして、幾つもの隕石が落ちて、地上は轟音と嵐の様な強風と砂けむりにまみれ、火災や倒壊、崖崩れなど多くの被害が出ていた。



だが、その災害も、その後に起こる前代未聞の事態のプロローグに過ぎない。


二日におよび降り注いだ隕石が止んだ後に、地上に出た人々は、かつて無い存在を目にしたのである。



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「何なんだ?コイツらは!」


空軍基地でシェルターに避難していた戦闘機パイロットのジャック・ジャクソン少佐は、基地の滑走路を這い回る物を目にして思考が飛んでしまった。


その存在は、昆虫の様に全身が三つの部位に別れ、それぞれに四本づつの脚がついている。


一見すると寸足らずのムカデの様にも見えるが、危惧すべきは、その一体一体が十メートル前後あり、見回しただけで二十匹以上居る事だ。


怪物モンスター!」


ジャックの後で、同僚の誰かが声をあげた。

その声で我に帰ったジャックは、周囲を確認し、急いで基地の武器庫へと駆け込んだ。


「くそっ。滑走路が使えれば」


滑走路は点々と居る怪物の為に、飛行に必要な加速が得られない状態にある。

そして、この基地には垂直上昇型の戦闘機は無かったのだ。


彼が武器庫へ走ったのは、直感的に怪物モンスターと隕石が無関係でないと判断し、シェルターの奥を崩壊させた隕石にも同様の存在が居るかも知れないと思ったのだ。


それは昔の映画で、隕石に紛れて宇宙人や殺人生物が飛来した作品を見たからかも知れない。


だが、その直感はハズレていない様にも感じた。


この基地のシェルターには複数の出口が存在し、その一つが隕石の直撃を受けた報告を彼は受けていたのだ。


滑走路側はシェルターのドアを閉めれば大丈夫かも知れないが、もう一つの方は施設の内側にまで崩壊がおよび、この異生物の侵入を許してしまうかも知れない。


RPGロケットランチャー手榴弾パイナップル自動小銃サブマシンガン。これ以上は無理か!」


持てるだけの武器を手に、武器庫を出たジャックは、複数持っていた自動小銃の一つで、シェルター入り口に近い怪物へと引き金を引いた。


最初は弾かれていた弾丸も、数十発を連射すると、鎧の様な外皮を貫き、怪物の動きを止める事ができた。


「これだけ撃ち込んで、一匹だけか」


撃ち尽くした自動小銃を投げ捨て、彼はシェルター入り口へと走る。


「助かった。開いていたか!」


シェルターの入り口にはMP/ミリタリーポリスが立っており、出た人数と戻った人数とを数えていた為に、ジャックが閉め出される事はなかったのだ。


既に、先に帰還した兵士により怪物の存在は報告されており、撮影された映像も室内モニターに流されて、シェルター内は騒然としていた。


その中をジャックが向かったのは、基地責任者の元だ。


「カーネル少将閣下。Cゲート付近が隕石の落下で崩壊したと報告を受けています。あの怪物の侵入に備え、武装兵を送っておくべきではないでしょうか?」

「うむ、Cゲートの報告は聞いておる。一応、調査班は送っているが、確かに武装が必要だな」


少将は、副官に目配せをし、副官は部下へと指示を出した。


「お前も来い!」


副官は、武器類をもったジャックにも顎で合図し、同行する様に促す。

シェルター内の武装は自動小銃だけなので、未知の怪物相手にはジャックが持ち込んだ武器が有効だと判断したのだろう。


「イェッサー」


ジャックは、手持ちの武器の幾つかを配り、兵員達の後を追って走った。




*カイパーベルト

太陽系の外苑部にあるとされる小惑星群。

主に氷でできた天体の集合体と予想されている。

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