第4話 怪物駆除と国連決議

基地司令官であるカーネル少将は、頭を机に伏して溜め息をついていた。


「はぁ~」


司令官補佐である副官も記録の手を止めて、無言で天井を仰いでいた。


「ペンタゴンに報告して、信じてもらえると思うか?」

「私が事務官だったら、後任を用意して軍病院に収容しますよ、将軍」

「いやぁ~俺も信じられませんけどね」


最後の一言を言ったジャックに、将軍と副官の睨む視線が向けられる。


だが実際に、滑走路には全長30メートルのF15イーグルが止まっており、怪物の死体が散乱している。


監視衛星の大半が音信不通だが、生き残った物がソノ姿をとらえているかも知れない。


「しかし報告しないのも、後々には軍法会議ものになる。ここは、病院送りを覚悟して報告しておくべきだな」

「そうですね。上手くすれば病院送りで、この件から離れられるかも知れません」

「そうだな、その手があるな!」

「将軍。報告書は是非とも自分も連名でお願いします」


副官は気をとりなおして、調書の内容整理を始めた。


【宇宙人】や【宇宙怪物】などの件に関わりたくない、事勿ことなかれ主義の者には、下手に関わって責任を取らされるよりも、病院送りの方がマシなのだ。


「あのぉ~怪物も一区切りついたんで、俺も軍病院とか、精密検査に引きこもりたいんですけどぉ~」

「聞いているぞ、少佐。あの物体は、他の者が触っても、ネジ一つとして動かせないらしい。あの質量で滑走路が陥没しないのも不思議だが、君以外が乗り込む事も無理なのではないのか?」


ジャックは宇宙人との会話を思い出す。


「確かに、俺が『使わせてもらう』とは言いましたが、いち少佐には、責務が大き過ぎませんか?」

「しかた無かろう。国家の為に、地球の為に戦うのが軍人なのだからな。それが『君にしかできない』と言うのなら、誰にも選択肢は無い」


ジャックが諦めて項垂うなだれていると、机の内線電話が鳴った。

副官も、ここにいるので、将軍はスピーカー出力にした。


「今は会議中だ。後にしろ」

「至急です。基地のデータサーバーがハッキングされて機密ファイルまで読み出されています」

「何っ!ファイアウォールは?ハッキング元はどこだ?」

「それが、ジャック・ジャクソン少佐のIDで・・・・」


カーネル少将と副官の視線が、ジャックに突き刺さる。


「お、俺っ?IDカードも、ここに有りますよ」


この施設の情報ネットワークは、胸に付けているIDカードと、左手首に埋め込まれたマイクロチップ、パスワードにより承認される。

特にマイクロチップは、特殊な腕時計により、スキミングが困難になっている。


「サーバーの電源を落とせ!」

「既に実行済みです。サーバーのハードウェアーは停止していますが、ウイルスが複数の起動中の端末やパソコンを転々と移動しながら、何処かへ送信している様です」

「こんな時に、いったい何者が?」


不幸中の幸いは、この大量の隕石の被害で衛星通信はおろか、地上用データ通信アンテナ、通信ケーブル、通常の電話回線すら不通になっている為に、物理的にコンピューターウイルスが拡散しない点だけだ。


音声通信システムは、コンピューターを経由していないので、データ転送には使えないのだ。


トラブルが重なると、人間の処理能力は著しく低下する。


「あーっ、いったいどうしたら良いんだ?」


将軍は成す術もなく、髪を搔き乱して慌てた。

基地の機密ファイルには、全国の防衛計画も含まれている。

流出すれば、外国が容易に侵入や攻撃をする事が可能になる。


〔情報を解析中〕


どこからか、声がする。


「補助脳か?何処から声を出している?」

〔腕時計のアラーム機能を変調しています〕


確かに補助脳の声は、腕時計から聞こえていた。


「で、何の情報を解析しているんだ」

〔最寄りの情報源から、環境情報、社会情報、生物学的情報、軍事技術情報、軍事作戦情報を収集し、解析中〕


ゴン!


将軍は、座ったまま、頭を机にぶつけた。


「きぃ~さぁ~まぁ~かぁ~?」


副官が立ち上り、ジャックの襟首を掴んで引き上げて睨んだ。


「俺じゃあ無いっすよ!コイツが勝手に」

「お前の戦闘機だろう?」

「俺は使っただけで、俺のって訳じゃあ無いでしょう?じゃあ、俺の乗ってたF20タイガーシャークは貰っても良いんですね?」

「軍の戦闘機を私物化して良いわけがないだろう」

「じゃあ、俺の責任じゃあ、ないですよね?」


睨み合う副官とジャックを、カーネル将軍が手で止めた。


「分かった。分かったから、流出だけはさせるな!ジャクソン少佐」

「了解であります。分かったな?補助脳。外部には漏らすな!」

〔御命令のままに〕


こうして、基地サーバーへのハッキング事件は、基地司令官の権限で闇に葬られた。





その後、将軍と副官の病院行きという期待を込めた報告書は、車両でペンタゴンに送られたが、一週間程で意外な指令書の形で帰ってきた。


「将軍、辞令が届いたとか?引継ぎ用意と、荷物の整理は終わっております」


ペンタゴンからの辞令を読みながら、将軍の額では血管が浮き上がり、今にもキレそうだ。


「残念だが、長期休養は取れそうにない」


将軍から辞令を受け取った副官は、目を通して首を捻った。


「はぁ?何で当基地が、国連軍に加わって、米日露の合同演習をしなくちゃいけないんですか?」

「二枚目を読んでみろ!」


辞令に添付された書類には、米国以外でも、日本とロシアにも同様の物体が飛来し、異なる変貌を遂げて、周辺の怪物を殲滅した事が、NSAーアメリカ国家安全保障局ーの調査で判明したらしい。


同様に、ロシアも巨大F15などの情報を入手しており、個別に運用するよりは、共同で運用する方が良いと、両国で同意した結果らしい。


「これは、アレですね。個別に解析するよりは、サンプルを増やして効率を上げようって算段でしょう」

「表向きは、怪物に対抗する装備を、三国共同開発した事にして、中国や欧州、中東に技術を渡すまいと考えているのだろうが」


他国でも同様の物が発見されていた為に、他国の件も自国の件も、事実だと認定されてしまったのだ。


それどころか秘密保持の為に、転属願と、外出願、休暇願いも全て凍結されてしまった。


「命令だ!基地内の全ての宗教活動を禁止し、教典を火にくべろ!」

「賛成です。この世には、神も悪魔も居ない様ですから」

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