順番 (今) 下

 手紙を読み終わった君は昔に比べて、より綺麗になった瞳で、

「なんの手紙?」

 と聞いてきた、当然だ。

「昔を思い出して欲しかったんだ」

「なんで?」


 横断歩道の出会いから五年目の今日は、少し高いレストランの来ている。


「五年前と状況が違うでしょ?」

「うん」

「僕は小説家に、君は保育園の先生になったし、お互い成人したしね」

「そうだね」

「出会った日の事覚えてるかなって」

 彼女は笑いながら

「もちろん、忘れないよ!願いが叶った日だもん」


 彼女はあの日よりも前から、私のことを知っていたらしい。

 いわゆる、片思いをしてくれていたのだ。


「そっか」


 唾をごくりと飲む。


「なに」


 首を傾げる君。


「僕は順番を守ってばかりの人間だった、何から何までね」

「急にどうしたの?」


 彼女が困ったか顔をする。


「良いから聞いて」

「うん」


 彼女の顔が真剣になる。


「君と会ってから順番や秩序なんてものは、気分で決めるようにした。カップラーメンの”あと入れ”を先に入れちゃってるし、3分も測ってない。小説だって今では、自由に書いている」

「良いこと?」


 彼女が不安そうな顔になる。


「良い事だよ」

「よかった」


 彼女が、また真剣な顔になる。


「小説家として食っていけるようになったのも秩序や順番を固く考えないようになってからだ」

「うん」


 彼女の少し表情が緩くなる。


「結婚しよう」

「え」


 彼女が驚く。


「結婚」

「突然過ぎじゃ…」


 笑う君。


「結婚式は」

   


「今からにしよう」


 君が泣く。


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恋愛と順番の手紙。 蜂屋二男 @hachi843

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