遭遇
「ぐらぁぁぁ!!」
先に仕掛けて来たのは兎熊の方だった。丸太のような腕が俺目掛けて横薙ぎに振られてきた。
「よっと」
しゃがみ、それをやり過ごす。今まで、支えになっていた樹がべきべきと音を立てて、折れた。かなりのパワーがあるな。まともに喰らったら、この樹みたいになることは明白だ。
俺は熊の腹に狙いを定めて、左腕に装備した手甲のボタンを押した。この手甲は唯の防具ではない、甲の部分に毒針がセットされて、ボタン一つで射出される。
カンッ。毒針は体に刺さらず、弾かれた。
「そう簡単にいかないか」
俺の目の前に熊の左拳があった。
「くっ」
防御も回避も出来ず、拳は俺の顔に直撃した。
頭が割れるような強烈な痛みが全身を駆け巡った。俺は木々を巻き込み、なぎ倒し、後方に激しく弾き飛ばされた。
意識が遠のいていく。視野が狭くなり、ぼやけている。口の中は鉄の味でいっぱいだ。
「まだまだ」
右手で堅く握っていた、刀を支えにして、震える体を無理やり立ち上がり、頭から流れている血をぬぐった。俺は何故か笑っていた。ここまで追い詰められていたのに口角があがっていた。
熊がのっそのっそっと、こちらに近づいてきている。向こうはこちらを格下だと思っているみたいだ。
「上等っ!!」
俺は熊目掛けて、走った。
間合いに入ったと同時に跳躍、兎の頭目掛けて刀を降り下ろした。が、刃は奴の左腕に阻まれた。
「ちっ」
腕を主軸にして、後ろに跳ぶ。
兎熊が右腕を引いているのが見えた。空中にいる状態だと、直撃は、確実、今度こそ旅の終わりだ。
その時だった。
兎熊の後頭部が爆発した。兎熊が振り返るも、今度は顔が爆発した。誰だかわかんないが、助かった。
「ぐわぁぁぁ!!」
悲鳴に似た声をあげ、腕を顔にあてて、こちら側にふらついた。
好機
俺は再び、走り間合いを詰め、がら空きの背中を刀で袈裟斬りで赤い一本線を引いた。やはり、堅い。この状態もあって、傷は浅い。
「まだまだ!!」
次は横一文字に一本線を引いた。
「ぐぎゃぁぁぁ!!」
流石に効いたか、悲鳴をあげてくれた。
追撃を加えようとしたが、嫌な予感がし、頭を下げた。頭上で奴の腕が空を切った。
「ふんっ」
俺は体型を下げたまま、奴の膝裏を切り裂いた。膝裏は柔らかく、深く切裂くことができた。
奴は体型を崩し、俺に足を向け、地面にでかい胴体をつけた。
俺は間髪入れずに、奴の上に乗り、刀を降り上げ、勢いよく首に突き刺した。兎熊はビクンっとしたが、糸が切れ、動かなくなった。
「ふぅ」
俺は息を尽き、熊の毛で刀の血をぬぐい、納刀した。
世界が傾き、暗くなっていく。さすがに限界か。
森林に横たわった男を見下ろす影があった。その手には、銃が握られていた。
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