荒野はいつの間にか森に変わっていた。ケタケタと笑っていた土獣の姿はもう見当たらない。


「はぁ……はぁ…………」


 俺はあの後、必死に荒野を駆けていた。文字通り死ぬ気で走っていた。戦闘疲れと傷でどうにかなりそうだ。


 木に背を預け、キューブから水筒を取り出し、茶をのどに流し込む。茶の冷たさが全身を駆け巡り、火照った体を癒してくれる。


「さて、どうしたものか……」


 空はすっかり暗くなっていた。夜行性の獣が動き出す頃だな。野営を張って夜を過ごそうにも、トーチは置いてきてしまい、予備はない。そのため、獣を狩って新調しないといけない。


 狩をする気力はもう残されていない。足がずきずき痛み、応急処置で巻いていた包帯は血と汗でグッショリになっている。


 ひとまず、包帯を交換することにした。包帯を外した足は紫に変色して腫れあがっていた。刺した奴が蚊だったからか痒みがあって鬱陶しい。


 痒み止めは持っておらず、これも獣を狩ってから入手しないといけない。


 ガサガサ


 近くの茂みが揺れた。俺は咄嗟に柄に手を伸ばし、いつでも抜けるように警戒した。


 茂みから兎が出てきた。体は熊みたいに毛むくじゃらな点を除けば普通の兎だ。だが、こいつもケタケタと同じ獣だ。油断はならない。


 兎は鼻をヒクヒクさせ、此方を愛くるしい眼でこちらを見てきた。


「……」


 一瞬の間が経った。先に動いたのは兎の方だ。兎は座り込んでいる俺の首を噛みちぎらんと飛びかかって来た。


 俺は刀を抜き、応戦しようとしたが。


「ぐっ……」


  視界がボヤけ頭にノイズが走り対応が遅れた。否応なく咄嗟に左腕を伸ばした。


 ガブリと兎は俺の腕に噛みつき、ぶらんと、吊り下がった。


「いった……!!」


  鋭い痛みが脳を駆け回った。


「こんのおぉ!!」


 俺は勢いに任せて、兎を腕ごと木にぶつけた。ゴンっと鈍い音がして、兎は俺の腕から離れた。


 どさっと地面に落ちると同時にポーチから手のひらサイズのキューブを出して兎目掛けて振り下ろした。


  頭の形が変わるまで 何度も何度も殴った。


「きゅぅ……」


  兎は可愛らしい声を上げて息絶えた。俺は返り血で黒色に濡れたままの手で後ろ腰に装備しているナイフを抜き、兎の肉を抉りキューブを取り出す。 


  コンソールを開き、良いものが入ってることを祈りながら中身を見た。残念だが、トーチは入っていなかった。が、幸運なことに鎮痛剤に虫用の解毒剤の注射器が入ってた。


「よしっ!」


  どうやら運命の女神様には嫌われていないようだ。


 兎に噛まれた左腕を見る。ズキズキと痛み、血が流れてる。が、大した傷ではない。感染症が怖いから兎のキューブに入ってたアルコールを傷口に流し、出しっ放しにしていた包帯の余りを巻いた。そして、刺された足に注射を打った。


  ドスンっと地鳴りがした。もう勘弁して欲しい。俺は悪態をつき、兎のキューブをバックパックに入れ刀を杖代わりにしてよろよろと立ち上がる。注射は即効性の強い薬だった。お陰で少しは楽になって動ける。


  木々を掻き分けて、そいつは姿を見せた。2mくらいはあるクマだ。顔は体に似合わない可愛らしい兎だ。


 クマの赤い瞳は光、こちらを睨んでいる。 さっき、倒した兎はこいつの子供だったのか?まぁいい、ひとまず、現状打破しないといけない。


  兎の頭を殴るのに使ったキューブの中から手甲を取り出し、左腕に装備した。


「かかってきなよ」


俺は刀を鞘から抜き、中段に構え、無理矢理笑顔を作りクマを睨み返した

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る