第9話 着水
プラットホームからの帰り道、僕はとぼとぼと歩いていた。
あの後、僕たちの機体は安定した水平飛行を続けた。往路のタイムを見ると、新記録を十分狙える快速ぶりだった。好記録を狙っての急旋回も無事に乗り越え、ゴールへ向かって一心に直進を続けていった。
と、その時、プラットホーム上の大会旗が大きくはためいた。それは大いなる琵琶湖の、気まぐれのサインだった。数秒後のゴールインに向けて着水態勢を取っていた機体は、突風に抗うにはあまりにも低い高度しか残しておらず、なす術もなく水面へ突入した。歴代最速の新記録樹立という僕たちの希望は、あと数メートルを残して、
白く輝く真夏の湖面に、左翼がウィングレットを立てて消えていく瞬間を、僕は涙なくして見ることはできなかった。
幸いにも、パイロットは怪我もなく無事に帰還したが、僕の心には、もう少し、もっと、という気持ちが芽生えていた。今大会で、僕たちは全力で機体を製作したし、パイロットは果敢に操縦した。誰が悪いのでもなく、ひとえに、自然を相手にする競技であるが故に逃れることのできない、自然の気まぐれに翻弄されただけのことである。だからこそ、もう一度飛ばしたい、もう一度飛んで、新記録を狙いたい……そんな気持ちが、早くも生まれていた。
今ようやく、父さんの気持ちが真に分かった気がする。引退したにもかかわらず、なぜいつまでも追い続けるのか。結局あれ以来毎年来る気持ちも、今なら、分かる。
はは。何だかんだ言っておいて、僕もしばらくは成仏しないな。
自嘲気味に、そう確信した。
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