第6話 1 番機、旋回

 薄ら明るくなった午前5 時過ぎ。僕たちは早々に朝食を終え、機体を組み立て始めた。忙しい一日が始まる。湖岸に沿って各チームが機体を並べている。フライト順の早いチームでは既に組み立てが終わり、桟橋へ進む準備が整っている。強い日差しによる機体の変形を防ぐために、スポンジ製の銀マットを機体に巻き付けているチームも多い。我が東讃大学とうさんだいがくのフライトは午前10 時過ぎの予定だから、焦らず着実に組み立てを進めていく。


 午前6 時。タイムトライアル部門が始まった。プラットホーム上では1 番機が準備を整えているところだろう。パイロットへの取材で、現地でもしばし待機となる。

 しばらくして、ようやくパイロットが機体に乗り込んだ。操縦翼面等の動作を手早くチェックし、間もなく離陸だ。離陸すればプラットホーム上が空くので、次の機体が前に進む。そうして、やがて我々のチームも前進できる。前進と言っても、カニのように横ばいで進むのだけれど。鳥人間の機体は、一般に全長よりも横幅が圧倒的に長く、チームによっては40 メートル近くなることもある。翼が人や松原、水面と接触するのを避けるために、通常は頭を湖面側に、尻尾を松原側に向けて組み立てる。この配置には、細かく言えば説明しきれないほどの多くの理由とノウハウがあるので割愛する。


 1 番機が離陸した後、前のチームが移動し始めた。こちらも移動しなければならないから、1 番機のフライトをじっくり観戦する余裕はない。周囲の歓声で何となく察する程度だ。


 ざばっという音が沖の方で上がり、観客がどよめいた。やや拍子抜けしたような声だった。何が起きたのか、チームのみんなも察したのだろう。黙々と移動を勧めた。

 機体を下ろし終え、湖面に目をやった。ゴールより遥か向こう、旋回ポイントの辺りに浮かぶ主翼が見えた。予想していた通り、折り返しの旋回中に着水したのだ。

 タイムトライアル部門では、旋回時に着水する事例が非常に多い。水面から僅か数 メートルの高度で、横幅約20 メートルの機体を傾けて旋回しなければならない。それも、訓練を積んだとはいえ、人間という非力な発動機を使用してである。更には、実機を用いた180°の旋回など、ほとんどのチームが訓練していない。タイムトライアル部門の最も難しい部分であり、だからこそ面白い部分でもある。旋回中に着水した場合は完走扱いとならず、「記録なし」という結果のみが残る。とにかく無事に旋回を成功させるために、遅延を承知で大半径で旋回するチーム、優勝を目指し小半径での旋回に挑むチームなど、それぞれの方針が明確で面白いポイントだ。詳しい人ならば、設計図を見た時点で機体の設計思想を瞬時に読み取れるという話を、以前先輩から聞いたことがある。その奥深さが、この2 年で僕にもだんだんと分かってきた。

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