8/26お題『入試』

 結果は散々だった。

 思わず目を閉じて、ちらっと片目だけ開けるが結果は変わらない。

 右を見て、左を見て、上を見て、ため息をついて少し泣く。

 そしてトボトボと前を見ないまま私は歩き出した。

 今はもう、何も見たくない。

 ただ青空だけを見ながらこの場から去りたい。

 試験の結果発表などこの世でなくなって欲しいもの第一位と相場で決まっている。

 私はどこにでもいる日本の普通の女子中学生。

 お先が真っ暗になったので上を見て歩いていたら、いつの間にか迷子になっていた。

「……あれ?」

 おそらくはまだ学校の敷地から出ていないはずである。

 仕方なく、私は広い広い学園の中を彷徨った。

 不思議と在校生の人達は誰一人として私に声をかけず、横を通り過ぎていく。

 まあ迷いなく歩いているのだから彼らもまさか入試に落ちた学生が自信満々に学園内を迷走しているなどとは思うまい。

 敗因はなんだっただろうか。

 国語か。

 理科か。

 数学か。

 いいや、英語に決まっている。

 あんな世界でも二番目くらいにしか使われていない言語に一喜一憂などしたくはない。人口だけで言えば絶対に中国語の方が多い。何せ中国人がやたら数が多いのだから。

 そう、もういっそう地球人みんな漢字を使うべきである。

 ――まあ、漢字は使えても中国語はしゃべれないけれど。

 というかあのやたら省略した簡体字とかいうよく分からない漢字も使えない。

 そんな馬鹿なことを考えながらぐるぐると校舎を回っていたらいつの間にか行き止まりに辿り着いた。

 すなわち屋上である。

 この学校は屋上を開放しているらしい。

「よう、落第生」

 網だらけの屋上で立ち尽くしていると背の高い女子高生が立っていた。

「なっ、人を捕まえて落第生なんて失礼ですよ」

「でも、ウチを落ちたよね」

「ぐっ」

「ならアタシよりは落第生じゃん」

 びしっ、と女子高生に指摘され、私は言葉に詰まった。

「残念無念また来年だよ、若者よ」

「いや、浪人する気はありませんよ」

「なにおー! うちに対する君の執着心はそこまでなのかい、ちんちくりんくん」

「ですね」

「じゃ、泣くことはないじゃない」

「泣いてませんよ」

「さっき泣いてたじゃん」

「ぐっ」

「じゃん」

「じゃんだけ残してどうするんですか」

「お、元気だね。良いことでもあったのかい?」

「いいえ、散々ですよ」

「えー」

「あなたの後輩になれなかったと思うとちょっと執着心が湧いてきました」

「いーねー。アタシってば罪な女……じゃん」

「あ、無理してじゃん使わなくていいです」

「そっか。なら――」

 と、女子高生はスマホを掲げる。

 反射的にスマホを私も取り出す。

「アド交換しよ」

「……私は落ちたんですよ」

「別に。関係ないでしょ。同じ学校の人間としか友達になれないタイプの人間?」

「んー、他校の友達とは疎遠になるタイプです」

「そっか。じゃあこういうのはどう?」

 女子高生は私の顎に手をあて、顔を上に向けさせてくる。

 ――え?

 気がつけば唇を奪われていた。

 あまりにも突然の出来事に私は力一杯目を開き、何かを叫ぼうとして、しかし言葉にならず勢いが霧散する。

 そして女子高生は笑った。

「じゃ、恋人ならどう?」

「あ……はい」

 私が頷くと再び唇を奪われた。

 パインジュースの味がした。



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