8/25お題『列車』

 迷いのない旅路。定められた道がある。

たたんととん たたんととん

 列車は行く。

 どこまでも続く線路に乗って。

たたんととん たたんととん

 終わりある旅路。

 いつか辿り着く果て。

 決められた、わかりきった道を進みながら。

 今どこに居るのか分からない。

たたんととん たたんととん。

 私はどこにでもいるふつうの女子高生。

 今は電車に乗って、道に迷っている。

 聞いたことのない駅。

 知らない路線。

 電車なんて決められた場所を走り回るだけの乗り物なのに。

 私は今目的地を見失っていた。

 幸いにして、電車代を気にする必要はない。

 『青春18きっぷ』という一日乗り放題券を手にしているからだ。

 それがよくなかった。

 電車代を気にしないせいで、目的地を決めずどこまでも進んでいけてしまう。

 迷子が持つにはあまりにも危険な切符だ。

「まあ、目的地を決めていた訳じゃないのだけど」

 列車は必ず次の駅へ、決められた場所へと向かう。

 けれども、乗り手が目的地を決めていないのならば、どこに辿り着くこともなく線路の海を漂流するのみだ。

たたんととん たたんととん

たたんととん たたんととん

 ゆらゆらと、まるで海面を浮き輪で漂うように線路の波に揺られて私は乗り物の上で遭難する。

「……どこで降りようかな」

 決めなければどこまでも漂着するだけだ。

たたんととん たたんととん

「海が見えたら」

 一つの決意が私の胸に宿る。

「本物の海が見えたら、降りてみよう」

 いい加減山道にも飽きた。

ごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ

 列車がトンネルに入る。

 深い山道を突っ切り、暗闇を駆け抜ける。

 海が見えるだろうか。

ごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ

 風を切る列車の音が反響する。

 この先に海はあるだろうか。

 いや、きっとあるはずだろう。

 期待に胸を膨らませながら私は車窓の外を見た。

 その先に海が現れることを願って。



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