8/15お題『ごみ箱/都市伝説』
「まただ」
私は憂鬱な気持ちで天を振り仰いだ。
が、特に何かが変わる訳ではない。
目をつむり、数秒待つ。
ちらっと下を向いて、やっぱり目を閉じる。
ため息をついた。
観念してもう一度目を開く。
そこにはゴミ箱から溢れるゴミくずの山。山。山。
「なんなの? 誰なの? 一杯になったら誰か捨てにいけよ! というか一日でなんでこんなにたまってるの? みんなバカスカ食堂の自販機で飲み物買いすぎじゃない? もうみんな水筒にお茶入れてこい!」
ひとしきり叫び、はあはあ、と目を閉じて息を整える。
そして、ちらっとゴミ箱を見る。
やっぱりゴミは減っていなかった。
「何してるの?」
「うひゃあぁっ!」
背後から突然話しかけられて思わず飛び上がる。
「なんだ、キリッチか」
振り向いた先にいたのはクラスでも格好つけと評判の桐山よう子だ。
「いや、目を閉じてる間にゴミがなくなってないかなって」
「なにそれ? そういう都市伝説でもあるの?」
「いや、ないけど」
「ないのになにしてるの」
「でも、心持ちなんか、目を閉じてる間に良いことがあったら嬉しいなというか。
分かんない?」
「ボクには分かんないね」
「そら残念。キリッチはそこら辺キリッとしてるからなぁ」
「……仮にその言葉を受け入れるとしてもそこはキッチリでしょ。キリッとしてるの使い方おかしいでしょ」
「いやもう、これはキリッチが何か行動したらそれはもう全部キリッとしてるって動詞化していいと思う」
「んな訳ないでしょ」
「なら仕方ない。ゴミはあたしが捨ててこよう」
「え?」
「え?」
「なんで三上さんが捨てに行くの?」
「三上さんって言い方可愛くないから嫌い。ちゃんとあだ名で呼んで」
「あだ名で呼ぶほどボクら仲良くないでしょ」
「…………」
「ねえ」
「…………」
「……ミカロン」
「はい、あなたのミカロンこと三上ロンゴですよん」
「……三上さんってそういうキャラだっけ?」
「…………」
「ミカロンってそういうキャラだっけ?」
「キリッチにはそう呼んで欲しくて」
「距離感が分からない。今まで全然からみなかったのに。いや、まあいいけど。ミカロンって美化委員とか何かだっけ」
「いや、別に。でも、ゴミがたまってるのすごく嫌だから」
「そうやって黙ってミカロンが片付けちゃうから他の人が片付けなくなるんでしょ。それはよくないとボクは思うな」
「キリッチはキリッとしてるなぁ」
「だからそれはキッチリでしょ。えっと美化委員誰だっけ? ボクが言ってこようか?」
「居ないよ」
「え?」
「美化委員。このクラスには存在はしてるけどしていない」
「…………何かの都市伝説?」
「ブブー」
「あーあー。登校拒否の子が美化委員だっけ」
「そ。まあゴミを片付けるのが遅かったので男子達にリンチくらって来なくなっちゃった。おかげで誰も片付けないから、結局口うるさい私が片付けてるって訳」
「嫌な話聞いてしまったなぁ。そんなことが起きてるなんて」
「おっと、どちらかというと私からするとそれを今まで知らなかったキリッチの方がどうかしてると思うよ。なんで知らないの?」
「いや、なんか他のグループの話だし、登校拒否の子、気づいたら登校拒否になってて、気づいたら居なくなっていたので」
「それは意図的にキリッチが無視してただけだよ。ホントは何度も学級会が起きてるし、先生が何度もヒアリングとかしてたけど、他人事としてずっとキリッチが知らない振りをしてただけさ」
「…………」
「キッチリしてないねぇ」
「それは……そうだね」
「おっと、ここはキリッとしてじゃないの、て突っ込むところじゃない?」
「そんな気分にはとてもなれないよ」
「そっかよかった。ならゴミ捨て手伝ってくれる?」
「…………ボクで良ければ」
「キリッとしてないねぇ、そこは喜んで手伝わせてください、て泣いて言うところだよ」
「泣くのは余計だし、そこはキッチリでしょ」
「よし、いいツッコミ。じゃ、ゴミ捨て行こうか」
「うん」
「よろしい」
「……ミカロンは強い子だね」
「うん、だって男の娘だからね」
いえーい、と私はスカートははためかせながら横ピースで決め顔で笑う。
「よぉし、昼休みが終わる前にとっとと捨てちゃおう!」
かくて私達は仲良くゴミを捨てに行く。
少しでも世の中がよくなればなぁ、と思いながら。
「ところで一緒にゴミ捨てをした男女は恋人になりやすいって思わない?」
「思わないかな」
「えー、キリッチ冷たーい!」
「いいから、とっとと捨てに行こう」
了
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