8/12 お題『気温差30度』

 今日は良き日である。

 なんと曇っている。

 これならば今日は外を外出できるかも知れない。

 スマホを取り出し、今日の気温を調べてみる。

 気温、摂氏55度。

「知ってた!」

 手にしたスマホをぶん投げ、私はベッドにダイブする。

 地球温暖化が問題になってもう五十年以上が経った。

 けれども結局人類は有効な手を打てないまま、外は気温60度以上が当たり前。

 曇りの日だとちょっと気温が下がる、と行ってもやはり人類が軽装で出歩ける気温ではない。

 もっとも、それは日本の関西にいるせいではある。

「あー、北海道に引っ越ししたいわぁ」

 この温暖化の時代、日本で一番過ごしやすいのは断然北海道である。

 世界的にもロシアやカナダへの移住者は激増。

 赤道周辺から次々と人が離れていく時代である。

 今や日本も本州以南は試される大地として住民には覚悟が試される。

ぐぅ

 うだうだと現実逃避していたら空腹で腹が鳴る。

 最後に外出したのは一週間前。

 そろそろ冷蔵庫の貯蓄も尽きる頃。

「……仕方ない。買い出しに出かけるか。

 あー、スーツ着るのやだなぁ」

 がらがらっと服入れの扉を開ける。

 ハンガーにぶら下がっているのは潜水服のような冷却スーツである。

 腰元にピンクのフリルスカートがついてるのが精一杯のオシャレだ。

「ま、顔だけ化粧しとけば後はどうでもいいのは楽で良いけど」

 宇宙服のごとき冷却スーツを頭の部分から足を通し、するするっと肩まで装着する。

 冷却装置を作動させ、ぶぉぉぉっと内部に風が入るのを確認。生命維持装置もちゃんと動いている。

「よし、出かけるか」

 頭にかぽっと巨大な丸いガラスのヘルメットをはめて冷却スーツの装着を完成させる。

 扉を開けるとぐにゃりと視界が歪むのを感じる。こんなに天気が曇っているのに陽炎が発生している。さすがは試される大地である。日本の湿気でこの気温はなかなかに生きづらい。

 それでも、人類は生きていかねばならないのである。

「くっそー。絶対北海道に住むいい男を捕まえて移住してやる」

 そんな野望を抱きながら私は今日も全身冷却スーツを身に纏い、スーパーに出かけるのである。

「いってきまーす」




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