1章:人形探偵

第1話 人形探偵登場



 キヒヒ――カタカタカタ



 呪われた花見町~♪ 眠り病に~睡蓮病~♪ 全部人形の呪いの仕業~♪



「うるさいぞ菊。髪の毛とかしてやんないぞ」


 人形探偵と名乗る天音雫あまねしずくは今日もちょっかいをかけてくる日本人形のきくを手入れしていた。菊とは長い付き合いで人形がただ意思をもって喋っているわけではない。昔のある一件で出会った幽霊を一時的に現世に留めておくための器が人形というだけだ。雫には幽霊を人形の器に入れて現世に留めることとその人形と話すことできる能力がある。


「なあ~雫~。またこの黒一色の布か~? もっとシンプルなワンピースとかカジュアル系が良い~」

「ならそれに見合う女の子らしい言葉遣いを覚えろよ。ボクだって忙しいんだ」

「あ、ほらまたボクって言った~! 人のこと言えないだろ雫~」

「もう人じゃないだろ」


 雫は幽霊の魂を人形の器に入れることをまたはと呼んでいる。日本人形からフランス人形、雫の手作りの人形まで様々な人形が展示されているこの店で人形化しているのは菊の一体のみである。


「お客さんだ、菊」

「今日はどっちだ~?」

「珍しい……人だよ。菊……」

「分かってるよ~指示があるまで黙ってるよ~だ。まあ私の声が聞こえるのは雫だけなんだけどな」



 カタカタカタ――



「お、おじゃまします……」

「いらっしゃい。ボクはこの店を営んでいる天音雫だ。展示物の閲覧ですかそれとも事件ですか?」


 おそるおそる店に入ってきた少年はまだ小学生くらいで、周りの人形を視界に入れないように下を向いていた。雫の店は例の噂のせいでほとんどの人が立ち寄らないわけだが、こうやって助けを求める小学生くらいの若い人や人形好きだったり噂を信じない比較的年配の方はたまにやって来る。


「ここは、幽霊が見える幽霊が探偵をやってるって聞いたんですが……」


(ボクの噂は何個あるんだよ……そして幽霊が見える幽霊ってなんだよ。幽霊が出たから幽霊をぶつけて倒そうってか? まあ確かにゴーストタイプにゴーストタイプは効果抜群だけどさ……)


「いや、ボクは人間だよ!!」

「!?」

「すまない、急に大きい声を出してしまったね。それで具体的には何の用?」

「学校の庭の花壇が毎日荒らされてるんです。それも犯人が見つからなくて……」

「なるほどね。それが幽霊かもしれないってことか。いいよ受ける」

「ホント? ありがとう! お、おねーちゃん?」

「ボクのことは雫でいい……」


 雫は薄手のパーカーに黒い羽織をまとい、素足のままぴったりなサンダルを履いて出かける準備をした。


「……え? その人形も持ってくの?」

「……御守り……ね」


(うわー噓くさ~!! 雫ってそうーゆーとこ抜けてるよね)


「……。 君の名前は?」

「あ、荒木公太です」

「安心しろ公太。ボクはこの町をこの人形で呪ってなどいないさ。ま、まだ信じてもらえないと思うけどね。少しずつでいい、自分の目で見て真実を確かめるといい」


 支度を終えた雫はそう言って颯爽とその目的の学校に向かった。

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