一件落着?
「ボク、名前をコノハって言って、この山に住んでいる化けキツネなんだコン。普段は山で暮らしいてく妖や動物達と楽しく過ごしているんだけど、最近困ったことがあって」
「困ったこと、ですか?」
「そうコン。ついてくるコン」
コノハくんは私の腕からスポンと抜け出すとテクテクと歩きだし、社の横にある、雑木林の中へと入って行きます。
「追いかけましょう」
「えー、あんな所に入るの? 服汚れちゃうよ?」
「だったらルカは留守番してる?」
「行くよ。仲間外れなんてヤダもん」
北大路さんも渋々納得して、私達は雑木林の中へと入っていきます。
そしてそのままコノハくんを追いかけて行くと、斜面に掘られた小さな穴の前までやって来ました。
「みんなー、出てくるコーン」
「コン?」
「コンコン」
「コーン!」
すると穴の中から、たくさんの小ギツネ達が出てくるじゃないですか。
焦げ茶色の毛並みの、ふわふわモフモフなキツネ達。
か、可愛い!
「な、何ですかこの子達は。ここはモフモフ天国なのですか!?」
「トモ落ち着いて。この子達はそっちの白キツネと違って力は感じないから、どうやら普通のキツネみたいだね」
「なんだ、妖じゃないのかって、知世ちゃん何やってるの?」
せっかくですから、ちょっと写真を撮ろうかと。
しゃがんでスマホのカメラを向けていると、そんな私に興味を持ったのか、一匹の小ギツネが伸ばしていた手に頭を擦り付けてきました。
く、くすぐったい。けど、癖になりそうな心地よさがあります。
「この子達はわけあって、ボクが世話をしている小狐達だコン。ボクはこの子達に狩りを教えたり、一緒に遊んだりしていたんだけど、バイクを乗り回す変な人達があの神社に現れるようになって」
「バイクを乗り回す人達? ひょっとして、幽霊を目撃したって言う、あの暴走族のこと?」
「そうだコン。あいつらが騒ぐから、迷惑してたんだコン。ゴミを捨てるし、うるさいし、この前なんてひとり、見つかって面白半分に石を投げられたんだコン」
「そんなことが。許せませんね」
動物に向かって石を投げるなんて、何を考えているんですか。
取り締まるべきは幽霊よりも、そういった身勝手な人間の方なのかもしれません。
「それで、そいつらを追っ払おうとして、幽霊のふりをしたんだコン。妖術を使って、幽霊の幻を見せて、脅かしてやったんだコン」
「それがさっき見た幽霊ってわけか。けどお前も妖怪なら、わざわざ幽霊の幻を見せずに自分で脅かせば良かったんじゃ?」
「北大路さん、何を言ってるんですか。こんなモフモフした子が脅かしに行っても、怖がってくれませんよ」
私なら怖がるどころか、撫でくりまわしてます。
「うーん、そうかもね。けどあんた、チョイスが古くない? 今は令和よ、あんな白装束の幽霊なんて、江戸時代まで遡らないといないっての」
「あれ、ダメだったコン? 自分では、いい線行ってたと思ってたコン」
ダメ出しを食らったコノハくんは納得いかないようで、腕を組んでうんうん考えています。
まあとにかく、これでどうしてあんなことをしたのか理由は分かりました。
「それじゃあコノハくんは、この子達を守る為に、幽霊騒動を起こしたのですね」
「そうだコン。ボクが脅かすのは、悪い人間だけ。決して面白半分で、脅かしてたわけじゃないコン」
「俺達のことも、化かしてくれたけどね」
「そ、それはごめんなさいコン。最初はあいつらの仲間だと勘違いして、その後祓い屋だと分かって、怖くなったんだコン。でも、ケガさせる気はなかったコン。さっきまで見せてたのは、ただの幻。殴られてもケガしないコン」
私達はその幻に翻弄されて、ずいぶんと無駄な戦いをしていたと言うわけですか。
すぐに見抜けなかったのが悔やまれます。
けど真相がわかった今となっては、敵対する理由がありません。コノハくんはただ、この子達を守ろうとしていただけなのですから。
「分かりました。コノハくんのことはちゃんと上に報告しますけど、決して悪いようにはしません。ここに集まっていたと言う暴走族も、戻ってこれないようにしますから、ご安心ください」
「本当コン? ありがとうコーン」
感激したコノハくんがひしっと抱きついて、小ギツネ達もそれに続けと言わんばかりにムギュムギュっと体を刷り寄せてきます。
ううっ、やっぱりここは、モフモフ天国です!
だけどモフモフを堪能していると、北大路さんがこっちを見ながら、ため息をついてきました。
「知世ちゃんってば、あっさり説得させちゃって。あー、もう。勝負は完全に、あたしの負けね」
「勝負? あ、そういえばどっちが先に解決するか、勝負していましたっけ」
「あきれた、忘れてたの?」
うっ、ごめんなさい。
けど、北大路さんの負けって。今回は北大路さんの協力もあったから解決できたのであって、別に私の勝ちというわけでは無いと思うのですけど。
「何さその顔? まさか勝ってないとか言うんじゃないでしょうね」
「だって、私だけの力で真相にたどり着いたわけではありませんし」
「何言ってるの。どう考えても一番の功労者は知世ちゃんじゃない。さすが、風音が好きになるだけのことはあるわ」
なっ!
す、すすす好きは別に関係ありません!
「何だかよくわからないけど、勝ちでいいんじゃないの。ルカは頑固だから、もうテコでも曲げないと思うよ」
いいんでしょうか?
とにかく、ここでもめてても仕方がありません。
私達はコノハくんに別れを告げて、元来た道を戻って行きます。
するとその道すがら、北大路さんがそっと話しかけてきました。
「ごめんね、意地悪して。本当は、風音が好きになったのが子どういう子か、気になっただけなの。風音ってば告白したはいいけど、返事は保留って言うじゃない。これはもしかしたら、いいように手玉に取られて、弄ばれているんじゃないかって思って、心配になったのよ」
「も、弄ぶって、私がですか?」
ありえません。逆に私がどれだけ、葉月君に振り回されているか。
「まあ会ってすぐに、それはないって分かったんだけどさ。それ抜きにしても、知世ちゃんあんまり強そうに見えないし、ぽやーっとしてて頼りなさそうだったし、この子と付き合って風音大丈夫かなーって思って、つい意地悪言っちゃったんだ」
それが、勝負を挑んできた本当の理由ですか。
でも私って、そんなぽやーっとしてますか? 心外です。これでも悟里さんからは、しっかりしてるって言われてるんですよ。
「でも仕事ぶりを見て、案外やるじゃんって思ったし。知世ちゃんなら安心して任せられるわ。風音のこと、これからもお願いね」
「北大路さん……」
本当に、私なんかが任せられてもいいのでしょうか?
まだ告白の返事すらできていないのに。
それに、北大路さんってひょっとして、葉月君のことが……。
だけどそれ以上は何も聞けません。
最初は意地悪な子だって思っていましたけど、自らが囮になって私達を危険から遠ざけたり、素直に謝ってきたり。この一時間ほどの間で、彼女に対する印象はだいぶ変わりました。
そして私達はそのまま、スマホで呼んだタクシーに乗って、月が上る頃には自宅アパートの前まで帰って来ました。
「ふぅ、何とか無事戻ってこれたね。そういえばルカは、今夜はどこに泊まるの?」
「近くのビジネスホテルに部屋を借りてる。けど残念だなあ。もっと風音や知世ちゃんと遊びたいのに、明日には帰らなきゃいけないんだもん」
今日来て明日には帰るなんて、ずいぶん忙しいですね。
けど私も残念です。せっかく知り合えたのですから、もう少し話をしたかったのですけど。
すると。
「だったらさ、今夜はうちに泊まれば? 明日は休みだし、徹夜で一晩中遊べばいゃない」
「え、本当?」
葉月君の言葉に、パアッと明るくなる北大路さん。
って、ちょっと待ってください。い、今、泊めるって言いましたか!?
「ありがとうー。じゃあちょっと待ってて。ホテルに預けてある荷物、すぐに取って来るからー」
北大路さんはあっという間に、夜の町に消えて行ってしまいました。
どうやら泊まる気満々のようですけど、と、泊まるって。葉月君の部屋にですか!?
「ルカもホテルなんて取らずに、連絡してくれてれば良かったのにね。って、トモどうしたの? 肩なんて震わせて」
「ど、どどど、どうしたのじゃありません。本気で北大路さんを泊める気ですか!?」
「そうだけど。向こうにいた頃は、しょっちゅう互いの家に行って、泊めたり泊まったりしてたし」
しょっちゅう!? そんなに頻繁にお泊まりしあっていたのですか!?
「あ、あの。でも今夜は、二人きりなのですよね。やっぱりマズくないでしょうか?」
「マズイって、何が?」
「それは、その……北大路さんは女の子ですよ。なのに葉月君の部屋に泊めると言うのはどうかと。なんでしたら、私の部屋に泊めますから!」
やっぱり、高校生にもなって男女が同じ部屋で泊まると言うのはちょっと。
まあ葉月君なら変なことはしないと思いますけど、やっぱりイメージはあまりよくないですもの。
すると葉月君、「んん?」と眉間にシワを寄せます。
「待った。トモ、ひょっとして何か勘違いしてない?」
「してません。葉月君が紳士的で、女子にも決して手を出さない人だと言うのはわかっています。けどそれでもやっぱり、泊まるなら女子同士の方がいいかと」
「いや、俺もそこまで紳士的ってわけじゃないんだけど。って、そうじゃなくて、やっぱり誤解してる。ルカは男だよ!」
ですから、いくら男性だとしても……って、え?
北大路さんが、男?
なんですと!?
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