幽霊の正体
何の策も無いことに不安はありますけど、それでも今は戦うしかありません。3人ともお互いに背中を預けて、迫り来る霊達を迎え撃ちます。
「滅!」
「滅!」
「滅!」
暗い夜の神社で、花火でもやっているかのような光が何度も飛びます。
幽霊は動きが遅くて、攻撃力も低い。当たれば一発で倒せるほど、弱い相手。だけどさすがにこれだけの数だと、だんだんと疲れもたまってきます。
「はぁっ、はぁっ、半分くらい減ったかな?」
「そんなに減ってる? 何か最初と、あんまり数変わってない気が。知世ちゃんはどう思う?」
「そんなはずは。確かに何体かは倒したはずですけど……ひょっとして、増えていませんか?」
おそらく、間違いないでしょう。
さっき葉月君が言っていたようなゾンビもののゲームのように、無限に沸き出てはいませんか!?
弱いから何とかなるかもと思っていた少し前の自分は、なんて甘かったことか。
「いったいどうなってるの? 無限に出てくる幽霊なんて、聞いたことないよ」
「大した力は感じないってのに、何でこんな」
北大路さんと葉月君も、増え続ける幽霊に焦っています。
確かに感じる力はそう大きくなく、普通なら遅れを取りそうにないのに……ん? ちょっと待ってください。
不意に頭に、ある考えが浮かびました。
もしかしたら私達は、重要な見落としをしていたのかもしれません。
「北大路さん、さっきなんて言いました?」
「え? 無限に出てくる幽霊なんて、聞いたことがないってやつ?」
「そう、それです! おかしいと思いませんか? そもそも幽霊は、増殖するものじゃないんです。なのに倒しても倒しても出続けるなんて、あり得ません」
喋っている間も、もちろん敵は襲ってきます。
私達はやられないよう応戦しながら、会話を続ける。
「滅! そんなこと言っても、現に出てきてるじゃん」
「だけどやっぱり変なんですよ。百体くらいいるはずなのに、大した霊気を感じないのもおかしな話じゃないですか」
「それはまあ、確かに」
「それにこの霊達を見てください。揃いも揃って同じ髪型に同じ衣装、そっくりな顔をしています。百つ子じゃあるまいし、こんなにそっくりな霊の大群が現れるなんて、絶対に何か裏があるはずなんです」
考えてみたら、どうして今まで気づかなかったかが不思議なくらい、おかしな点だらけ。
力を感じる以上、何かがこの場にいるのは間違いないですけど、私達が相手をしているこの霊達は、作り物のような雰囲気が漂っています。
格好が昔の幽霊のテンプレと言うのも、やっぱり変ですし。
「私が敵の正体を探ってみます。だから二人とも、お願いです。少しの間、私を守ってもらえませんか」
「了解。ルカもそれでいいね」
「まあ、他に手は無いわけだし。しっかり頼むよ、知世ちゃん」
かくして、葉月君と北大路さんは私の両サイドに立って、近づいてくる幽霊の軍団を迎撃します。
「絶対にコイツらは俺達が止めるから、トモは自分の作業に集中して──滅!」
「と言っても限界はあるから、なるべく早くお願いね──滅!」
ええ、わかっていますとも。
二人が応戦してくれている中、私は目をつむって、神経を集中させる。
やっぱり力は感じます。けど、百体もの霊が集まっている割りには、あまりに小さい。
なら、その力はいったいどこから感じるか。
目を閉じたことで分かりましたけど、視覚さえ遮断してしまったら、あれだけ集まっていた霊達の存在は、まるで感じ取ることができません。
葉月君と北大路さんが戦っているのは分かりますからいるのでしょうけど、その存在がやけにあやふやなもののように思えてきます。
私が探さなければいけないのは、もっとハッキリとした力の出所。それは必ず、近くにあるはずです。
感覚の全てを使って、それを割り出していく。
方角は……こっち。二時の方向。
「天に星、土に命、還りたまえ──滅! トモ、何かわかった?」
距離は……あの辺ですね。絞り込めてきました。
「嘘は善、偽りは真──滅! はぁっ、はぁっ。ちょっとまだなの? さすがにキツくなってきたんだけど」
大丈夫です。だいたいの場所は掴めました。さあ、正体をおがませてもらいますよ。
そっと目を開くと、溜めていた霊力を解き放つ。
「迷う者、荒ぶる魂、鎮まりたまえ──現!」
使ったのは、攻撃術にあらず。
隠れ潜んでいる霊や妖を、あぶり出すための術です。
神社の中は、目映い光に包まれる。この光を浴びた者は、正体を表さざるを得なくなるのです。
すると……。
「うぁぁぁぁぁ」
「うらめしや~」
今まで群がっていた幽霊が、次々と消えていくではありませんか。
この光を浴びて消えたと言うことは、やっぱりあの幽霊達って……。
「消えた? てことは、コイツらって」
「あたし達が戦ってたのは、偽物の幽霊だったってこと?」
ええ、その通り。どうりで手応えがなく、そのくせ数だけいたはずです。
そしてその偽物を操っていた者が、そこにいます!
社の横にある、御神木の陰。私は地面を蹴ると、そこに潜んでいる何かに向かいます。
「もう逃げられませんよ! 大人しく正体を見せない!」
霊力をためた指をピストル状にして構えて、隠れていた誰かに突きつける。
けど、そこにいたのは。
「コォォォォォォォォン!?」
「え? あ、あれ?」
御神木の前にいたのは、なんと一匹の真っ白なキツネ。
丸くなって、ガタガタと震えているじゃないですか。
えっと、ひょっとしてこのキツネが、一連の騒動の原因だったりします?
「ひーん。ごめんなさいコン。、許してくださいコン。ボクはただ、帰ってほしかっただけなんだコン」
怯えるキツネを前に、構えていた指を下ろす。
だって何だかいじめてるみたいで、良心が痛むんですもの。
するとそこへ、葉月君と北大路さんもやって来ます。
「トモ、このキツネが犯人なの? 喋ってたみたいだけど、と言うことは妖狐の類い?」
「幽霊騒ぎの正体は、妖怪だったってこと? ややこしー! 人騒がせなキツネめ、キツネ汁にして食べちゃおうか」
「あ、いいね。四国ではタヌキ汁なら食べることあっても、キツネ汁食べる機会は滅多に無いでしょ。遊びに来たいい記念になるよ」
「コ、コォォォォン! お、お願いコン。キ、キツネ汁だけはご勘弁くださいコーン!」
泣きながら懇願するキツネさん。
こらこら、アナタ達は鬼ですか!
こんな子を食べちゃうなんて、かわいそうすぎますよ!
私はキツネさんをギュッと抱きかかえて、二人から離れる。
「ダメです、食べるだなんて許しません! かわいそうだと思わないんですか!」
「冗談だよ。だけどどうしてこんなことをしたのかは、ちゃんと答えてもらわないと」
「そうですね。キツネさん、悪いようにはしませんから、私達の質問に答えていただけませんか?」
するとキツネさんは腕の中から顔を上げて、私を見上げる。
「話したら、キツネ汁にしないコン?」
「しません。そんな残酷なこと絶対にさせませんから、安心してください」
「ありがとうコーン」
ムギュと抱きついてくるキツネさん。
わわっ、すっごくモフモフしてるじゃないですか。
フカフカでフワフワで、とっても気持ちがいいです。
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