キリサキさんの過去
メイさんを背中に隠しつつ、霊気を辿りながら真っ暗な商店街の中を進んで行く。
花屋さんの前を通り、洋服屋を通りすぎ。歩を進める度に、感じる圧が強くなっていきます。
そうしてたどり着いたのは、おそらくアーケードの中央付近。
開けたその場所で葉月君と。そして、キリサキさんが向かい合っていました。
「迷う者、荒ぶる魂、鎮まりたまえ―—っ滅!」
「シャアァァァァァァッ!」
思った通り、既に激しい戦いが始まっています。
術を―—光の矢を放つ葉月君と、それを避ける異形の存在、キリサキさん。
キリサキさんは手にナイフを持ち、バランスの悪い手足からは想像もつかない俊敏さで、葉月君の術をかわしています。
「葉月君、大丈夫ですか!?」
「トモ!? それにメイちゃんまで。どうして来たのさ」
一瞬にこちらを見て、だけどすぐにキリサキさんに視線を戻す葉月君。
一方キリサキさんは、やって来た私たちを見て歪な形をした口でニヤッと笑う。
「マズハコイツヲ始末シテ、次ガ前達ノ番ダッタガ、行ク手間ガハブケタ」
まるでウサギを見つけた狼のような目。
どうやら私たちを、完全に獲物だと思ってるみたいですけど、そう簡単にはやられませんよ。
私はメイさんを守るように構えましたけど、なぜかキリサキさんは見向きもせずに、葉月君から視線を外しません。
「トモ、メイちゃんのことは頼むよ。どうやらコイツは、俺を狙ってるらしい。探してたら、向こうから襲ってきたんだ」
「え、でもキリサキさんは、元々メイさんを狙っていたんですよね。なのにどうして?」
戦う力を持たないメイさんから葉月君に標的を変えたのは良かったですけど、理由がわかりません。霊力を持った祓い屋だから、先に排除しておこうと思ったのでしょうか? そう思ったけど。
キリサキさんは怒気のこもった声で、それを否定する。
「ドウシテダト? 決マッテイル、ソイツノ顔ダ!」
「え?」
「男ノクセニ女ヨリモ可愛イ顔ヲシテ、許サン! ズタズタニ引キ裂イテクレルゥゥゥゥッ!」
………………はい?
返ってきた答えに、私も葉月君もポカンと口を開ける。
え、ええと、つまり葉月君が可愛いから、嫉妬でターゲットを変えたと言うことでしょうか?
ま、まあ確かに葉月君は。見た目だけは可愛いですけど、ええーっ!?
「待て待て待て! それはいくらなんでもメチャクチャすぎない!? いや、メイちゃんを襲って理由だって十分メチャクチャか。アンタさあ、生前何があったか知らないけど、綺麗な人を恨みすぎじゃないの? 俺もメイちゃんも、別にアンタのことを見下してなんかいないって」
「あ、あたしも。聞いてキリサキさん。あたしと昔はブスってバカにされていて。だからキリサキさんの気持ち、分かるよ。だからもう、こんなことはやめて!」
非難するわけはなく、同じ苦しみを味わった者として、思いを伝えようよするメイちゃん。
ですがキリサキさんは、「ククク」と不気味に笑う。
「分カルダト? ソンナハズガナイ!」
「ひっ!?」
ダメです。メイちゃんの必死の声も、キリサキさんには届きません。
にべもなく一蹴したかと思うと、キリサキさんは耳まで避けた口を、もう一度大きく開ける。
「ダッタラ見テミロ、私ニ何ガアッタカヲ!」
―—っ!
叫んだかと思うと、突如頭がガクンと重くなり。そして脳裏に、映像が浮かんできした。
これも、キリサキさんの術?
まるで映画を見せられてるように流れ込んでくる映像に混乱したけど、徐々に状況が掴めてくる。
どうやら映し出された場所は、どこかの学校の廊下。
そこにはソバカスだらけの顔をした、ぽっちゃりとした体型の女の子がいました。
そして遠巻きに彼女を見ながら、ニタニタと嫌な笑いを浮かべている男子が数人。
『おい見ろよ。あいつ、相変わらずスゲーブスだよな』
『ああ、あんなみっともない顔して、よく外歩けるよな。ははははっ』
酷い。
私が言われたわけじゃないですけど、聞いているだけで気分が悪くなる。
暴言を吐かれた女の子は聞こえないフリをしながら、早足でその場を離れます。
もしやこれは、キリサキさんの過去? あの女の子が、生前のキリサキさんなのでしょうか。
容姿のせいでいじめにあっていたと聞きましたけど、こんなの酷すぎます。
言葉がどれだけ人を傷つけるか、きっとあの男子達は分かっていないのです。
だけど映像を見ていると、そんな彼女に二人の生徒が近づいてきました。
『霧子、大丈夫? あんなやつらの言うことなんて、気にすることないよ』
『絵里ちゃん……』
声をかけてきたのは絵里と呼ばれた、可愛らしい女の子。
彼女は、キリサキさんの友達?
それにキリサキさん、『霧子』って呼ばれていましたけど、それが彼女の本当の名前でしょうか?
絵里と呼ばれた女の子は励ますようにキリサキさん……いえ、霧子さんの背中をパンパンと叩くと、一緒にいたもう一人。男子生徒に目を向けます。
『霧子の良い所を分かってくれる人は、ちゃんといるから。真二君だってそう思うでしょ』
『ああ。何か言われたら、俺達に言えよな。俺も絵里も、お前の味方だからな』
真二君と呼ばれた男子生徒はニカッと笑い、霧子さんは『ありがとう』と、顔を赤らめる。
絵里ちゃんと真二くん、ですか。どうやら霧子さんにも、友達がいたようです。
その後も映像は進み、霧子さんは時折容姿をからかわれ、心ない言葉をぶつけられますが、その度に二人の友達に支えられて、笑っています。
それはとても、暖かい光景。
容姿なんて関係ない。こんな風に寄り添ってくれる友達がいるなんて、素敵じゃないですか。
だけど解せません。
これがキリサキさんの過去だとしたら、どうして彼女は悪霊に身を落としたりしたのでしょう?
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