葉月風美ちゃん爆誕!
福沢さんの依頼を受けて、いよいよ迎えたデート当日。
正確には、除霊の当日ですね。デートはあくまで、生霊を誘き出すための作戦なのですから。
私はデートはしませんけど、離れた所から福沢さん達を見張って、生霊が現れたらフォローに入ります。
問題は、福沢さんのデートの相手なのですが。
待ち合わせ場所に向かう私の隣には、長い黒髪をなびかせ、春物のスカートを翻しながら歩く美少女がいます。
正確には、美少女ではないのですけどね。
だって彼女の正体は、ウィッグをつけてメイクを施し、スカートを履いて女装した葉月君なのですから。
「はぁ。どうして俺があんなやつとデートしなくちゃならないんだ」
心底嫌そうな顔をする葉月君。
まあ、こんなことだろうと思いましたよ。葉月君に双子の妹がいるなんて、聞いたことありませんでしたもの。
髪を伸ばして春物コーデで揃えたその姿は、私よりもずっとオシャレで可愛く、女の子そのものです。
「それにしても、ずいぶん上手く化けましたね。どう見ても完璧な女の子ですよ。スカートやウィッグなんかは、どこから用意したんですか?」
「ああ、こっちに来る前に仕事で必要になった事があるんだよ。せっかくだから取っておいたんだけど、こんな形でまた着ることになるとは思わなかった」
「いったい向こうで、どんな仕事をしていたんですか? メイクなんて、私はやったことないのに……」
メイクに特別興味があるわけじゃないけど、男の子に先を越されたって思うと、ちょっとショックです。
すると浮かない表情が一転。葉月君はイタズラっぽく笑ってくる。
「ふふふ、だったら今度、あたしが教えてあげようか。とびきり可愛くしてあ・げ・る♡」
怪しい笑みを浮かべながら、手を頬に触れてくる葉月君。
ひぃ~! ち、近い近い。近いです!
心臓に悪いから、こんな悪ふざけはやめてください!
しかも普段とは雰囲気が違って本物の女の子にしか見えないので、強く拒みにくいのですよね。
迫られると、ドキドキしちゃいます。
「あらあら、真っ赤になっちゃって可愛い♡」
「や、やめてください。だいたい何なんですか、そのふざけたキャラ付けは?」
「酷いなあ、ふざけてなんかいないよ。今回は前に白雲女子に潜入した時と違って、依頼人の福沢も騙さなきゃいけないからね。本題は除霊だって言うのに、きっと正体が俺だってバレたら、デートなんてしてくれないでしょ」
確かに。あの絵に描いたようなプレイボーイが、男子とデートするなんて思えません。
当初の目的を忘れて拒否る姿が、容易に想像つきますもの。
「だからちゃんとキャラ作りをして、バレるのを防がないと。トモも俺……あたしのことは『葉月君』じゃなくて、『
えー、呼び方まで変えなきゃいけないんですかー?
『風音』から一文字変えて、『
こうして向かった先は、前回と同じカフェ。
ここで福沢さんと待ち合わせしてるのですが。席についていた福沢さんは、私達に気づくと、こちらにやって来ます。
「やあ、久しぶり。今日は来てくれてありがとう。そっちの子が、この前の彼の妹さんだね。君、名前は?」
「……葉月風美」
「なるほど、お兄さんそっくりだ。あ、もちろんお兄さんより君の方が、断然可愛いけどね」
福沢さんは気に入ってくれたのか、ニコニコしながら葉月君を見つめる。
「今日はよろしく。楽しい一日にしようね」
爽やかなスマイルを浮かべながら、握手をしようと手を伸ばしてくる。
だけど触れようと言う直前、葉月君の手がバシッとそれを払いのけました。
「気安く触らないでよ、このゲスが」
「えっ?」
凍りつくような冷たい言葉に、福沢さんは驚いたように固まってしまいました。
一方葉月君はというと、まるで汚物でも見るような目を、彼に向けています。
「馴れ馴れしくしないでよね。アンタのことは兄貴から聞いたけど、取っ替え引っ替え彼女を作っては遊んでいる最低野郎だって話じゃない。言っとくけど、今日は除霊のために仕方なく付き合ってあげるだけだから。勘違いしないでよね」
「えっ? えっ? 待ってよ風美ちゃん。君は僕の事を誤解して……」
「うげえ。アンタに『風美ちゃん』なんて呼ばれたら、虫酸が走るわ。しっし、あっち行け」
心底嫌そうな顔をして、まるで虫を追い払うかのように手を払う葉月君。
とてもこれから、デートをするカップルとは思えません。
まあ正体は男の子なのですから、男性に手を繋がれても嬉しくないのは分かりますけど。
でもこんなに拒絶してて、デートになるのでしょうか? これは一度、確かめた方が良さそうです。
「あ、あの、葉月く……風美ちゃん」
「なあに知世ちゃん♡」
うわっ! さっきまでの仏頂面が嘘のように、満面の笑みを向けてきます。
な、なんですか知世ちゃんって。声色も甘々で、まるで本物の女の子みたいです。
私達は福沢さんに聞こえないよう、小声で話をする。
「どうして私の呼び方まで変えるんですか。いつもみたいに、『トモ』でいいですよ」
「ダメダメ、どこでボロが出るか分からないもん。キャラ作りはしっかりしないと。知世ちゃんだって、ちゃんと除霊できないと困るでしょう」
「それはそうですけど。でも、あんなにツンツンしてて大丈夫なんですか? 正体がバレなくても福沢さんの機嫌を損ねたら、デートどころじゃなくなってしまいますよ」
「平気平気。あいつ、女子には見境無いみたいだから。むしろあんまり調子に乗らないよう、ちょっとくらいツンとしてた方が良いのよ」
そうでしょうか?
まあ葉月君は福沢さんのことを良く思って無いみたいですし。冷たい態度になってしまうのも、仕方がないかもしれません。
「こう言うの、何て言うんでしたっけ? ああそう、ツンデレってやつですね。リアルでツンデレなんて、初めて見ました」
「あら、知世ちゃんの部屋に、鏡無かったっけ?」
コクンと首をかしげる姿も、可愛らしくて様になっている。
だけどここで、置いてきぼりになっていた福沢さんが声をかけてきました。
「楽しそうに話してるとこ悪いんだけど、そろそろ行こうか。完璧なコースを考えてあるんだ」
「どんなコースだろうと相手がアンタだと、気が滅入るけどね。あーあ、デートの相手が、知世ちゃんだったら良かったのになあ」
「ええっ!?」
ビックリ発言に、思わず声を上げる。
こ、これもキャラ作りなのですよね?
「ははは、それじゃあ知世ちゃんも離れた所から見張るんじゃなくて、一緒に来る? 一度に二人とデートってのも悪く……」
「ふざけるなこのクズ。知世ちゃんに指一本触れたら、自慢の顔の形が変わるくらいボコボコにするから」
「ご、ごめん風美ちゃん。はは、ヤキモチ妬いちゃった?」
「はァ、お前何言ってるの? 頭腐ってんじゃないの?」
口を開けば毒舌の嵐。葉月君、普段ここまで口が悪かったでしょうか?
しかし福沢さん。多少圧倒されたものの、メンタルが鋼鉄でできているのか、すぐに元の調子を取り戻します。
「ふふ、まさか僕に向かってそんな風に言うなんて。君、面白いね。デレさせてあげたくなったよ」
「うげっ、キモッ! いいからさっさと行って、さっさと終わらせるよ」
「まあまあ、そう慌てないで。まずは駅に移動しようか。知世ちゃんも、はぐれずについて来てね。それじゃあ、行こう風美ちゃん」
「さらっと腰に手を回すな変態! セクハラで訴えるよ」
腰に触れる手を払いのけながら、マシンガンのように発せられる罵詈雑言。
面と向かってここまで邪険にできる葉月君も、全くめげない福沢さんも凄いですよ。
それにしても心配です。はたしてこんな険悪なムードで、本当に生霊は出てきてくれのでしょうか?
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