除霊のための㊙作戦?
一悶着も二悶着もありましたけど、私と葉月君は福沢さんと向かい合う形で、テーブルについて。
これでようやく、落ち着いて話すことができます。
「で、アンタの相談ってなに? 大方どこかで悪さして、誰かの恨みを買ったんだろうね」
嫌そうな顔をしながら、やる気無さそうに頬杖をつく葉月君。
どうやらさっきの一件が尾を引いているみたいです。
「君は失礼だなあ。僕はみんなから、愛される存在なんだから、恨まれるわけないじゃないか」
「はっ、どうだか。少なくともさっきトモは迷惑がってたけど。ねえ」
「わ、私は別に大丈夫ですから。それより本題、本題に入りましょう」
これじゃあいつまで経っても進みませんし、さっさと始めちゃいますよ。
そして話をしてわかったのですが、福沢さんは近くの高校に通う二年生で、学校では女子にモテまくって『王子様』って言われているのだとか。
確かに彼、性格はともかく顔はモデルさんみたいに整っていますから、モテるのも納得です。
町を歩いていると、女性から声をかけられることも多いそうで。だから私のことも、ファンと誤解したのだとか。
「で、アンタがモテるのはわかったけど、肝心の依頼って何?」
「ああ、実は祓い屋に依頼したのは占い師から、霊に取りつかれてるって言われたからなんだ」
「占い師ですか?」
珍しい話ではありません。
私達祓い屋は霊力を使って霊を祓っていますけど、占い師の方は霊力を使って人の運勢を見ます。その過程で、取りついている霊に気づくことだってあるのです。
「彼女とのデート中に、相性占いをしてもらったんだ。そしたら占い師の人が、僕にはたくさんの霊が憑いている。放っておいたら危険な霊だから祓った方がいいって、祓い屋を紹介してくれたんだよ」
「たくさん? 取り憑いているのは、一体じゃないのですか?」
「つーかあんた、彼女いたんだね。彼女がいたのに、トモにちょっかい出したんだ」
葉月君がジトッとした目をしますけど、長くなりそうなので放っておきましょう。
けど言われてみれば確かに、彼からは霊気の残り香が感じられます。もっとも、霊そのものの姿は今は見えませんけど。
すると葉月君が、何かに気づいたみたいに言う。
「ちょっと気になったんだけど、危険な霊が取り憑いているわりには、アンタずいぶん平気そうにしてるね。怪我させられたり、夜な夜なうなされたりはしてないの?」
「その点は大丈夫かな。危険と言っても、取り憑いている霊達は僕に危害は加えないそうだからね」
「それって、どういう事ですか?」
危険なのに、危害を加えないとはこれいかに?
矛盾した話に首をかしげると、福沢さんは続けてきます。
「実は取りついている霊っていうのは、僕の彼女のことらしいんだ」
「彼女って、一緒に相性を占ってもらった彼女さんですか?」
「違う違う、それとは別の彼女。いや、正確には彼女達、かな。僕には彼女がたくさんいるんだけど、その子達の生霊が取り憑いててね。自分以外の彼女が僕に近づくと腹を立てて、ヤンチャしちゃうそうなんだよ」
「「はあっ!?」」
え、えっと。ど、どういう事でしょう?
話がおかしすぎて、理解が追い付きません。
だけど混乱していると、葉月君が答えを出してくれました。
「つまりあんたは、複数の女子といっぺんに付き合ってるってこと?」
「そういうこと。ほら、僕って優しいから、告白してきた子を振るなんて残酷なことはできなくてね。だから全員と付き合って、みんな平等に愛してあげてるってわけ」
「ほーう、つまりあんたは、二股も三股も四股も五股もしてる、女泣かせってわけか」
「失礼な、泣かせてなんていないよ。ちゃんとみんな納得した上で、付き合っているんだから」
得意気に言う福沢さんですけど、それは倫理的にどうかと。
それに納得していないから、生霊になって悪さをしまっているのでは?
ダメです。彼の考え方には、まるでついていけません。
見れば葉月君も腹が立っているのか、顔を引きつらせて青筋を立てています。
納得できない気持ちはわかりますけど、どうか今は抑えてくださいね。
「まあそんなわけで、僕は彼女達の生霊に取り憑かれているんだよ。まあそれ事態は良いんだけど、問題はここから。彼女の中の一人とデートをしていると生霊達が嫉妬して、デートの相手に嫌がらせをするみたいなんだ」
「アナタじゃなくて、デートの相手に? なるほど、占い師さんが危険な霊と言ったのは、そういうことだったのですね。アナタ自身は平気でも、他の人に危害を加えると」
「うん。僕も最初は信じられなかったけど、言われてみたら最近デートした彼女達が転んで怪我をしたり、車に泥水をかけられたり、突然頭が痛くなったりしてたからね。これは放っておけないって思って、祓い屋に相談したんだ。本当は今日だってデートの予定だったのに、キャンセルしてだよ。女の子を心配してここまでする僕って、優しいでしょ」
そ、そうでしょうか?
そもそもアナタのせいで、こんなややこしいことになっているのですけど。
けどこれは、確かに放ってはおけませんね。
「わかりました、アナタに取りついている生霊は、私達が必ず祓います」
彼が取り憑かれた経緯はともかく、実害が出ているなら見過ごせません。祓い屋として、ここはきっちり祓っておかないと。
ただ、それには問題が一つ。
「祓うのはいいけどその生霊、今は姿が見えないんだよね。どうしたものか」
難しい顔をする葉月君。
そうなのです。取り憑かれていると言っても、色々種類があって。どうやら彼に憑いている生霊は、普段は姿を見せないタイプのようです。
だけどこうなると、祓うのが難しくなってきます。姿を捕らえない事には、どうしようもありませんもの。
「せめて取り憑いているのが誰の生霊なのかわかったら、対処できるんですけど。福沢さん、心当たりはありますか?」
「うーん、彼女の中の誰かの生霊ってのは間違いないから、しらみ潰しに探せばわかるかもしれないけど。何せ数が多いからねえ」
「いったいどれくらいいるのですか?」
「うーん、一、二、三、四…………十一、十二、十三……」
指折り数える福沢さんでしたけど、十を越えたのにまだ終わりそうにないのを見て、唖然とします。
もう良いです。しらみ潰しに探すのは、無理だってわかりました。
しかも生霊が複数いるのなら、一体一体祓っていったのでは時間がかかりそう。手っ取り早く全て呼び出して、祓えたら良いのですけど。
すると葉月君が、思い付いたように言います。
「ちょっと思ったんだけどさ。生霊が現れるのって、デートの時なんだよね。だったら誰かとデートしてもらえば、生霊を誘き出せるんじゃないかな。そこを俺達で祓うってのはどう?」
「なるほど、その手がありま……でもそれだと、デートのお相手が危なくありませんか? いくら私達が守るといっても、オトリに使うのはどうかと」
「ああ、そうだった。くそー、怪我をするのがコイツなら、遠慮無しにオトリに使えるのに」
葉月君、本音が漏れていますよ。
福沢さんも「君、聞こえてるよ」と苦笑いを浮かべましたけど、ふと何かを思い付いたように表情を変えました。
「そうだ、ちょっと思ったんだけどさ。知世ちゃんって、霊を祓えるんだよね?」
「え? それはまあ、祓い屋ですから」
「祓えなきゃここには来ていないよ。あと、馴れ馴れしく『知世ちゃん』って呼ぶなよな」
葉月君がまたも睨みましたけど、福沢さんそれをスルーして。何を思ったのか、いきなり両手で私の手を握ってきました。
「だったらさ、知世ちゃんと僕がデートするってのはどうかな? 知世ちゃんなら生霊がよってきても、その場で祓えるでしょ。デートしようよ!」
「へ? デ、デデデデートって、私がですか!? む、無理ですよそんなの!」
「はは、真っ赤になっちゃって可愛い。わかる、わかるよ。『私なんかが健人様とデートなんて恐れ多い』って思っているんでしょ。でも大丈夫、僕は来る者を拒まない主義だから」
「そ、そうじゃなくてー!」
私はデートなんてしたことないんです!
どうすればいいのかなんてさっぱり分かりませんし、そんなんで生霊を、ちゃんと誘き出せるかどうか。
それにですよ。もしもやるなら、それが人生初デートになるわけじゃないですか。
こんな形で初デートというのは、さすがにちょっと。
やっぱり、私にはできません。
それと、早く手を放してくださいー! さっきから握りっぱなしになってます!
けど振りほどこうとしても、強く握られていて放してくれません。
だけどそんな福沢さんの手を、葉月君が手刀が襲う。
「痛っ! 何するのさ?」
「それはこっちの台詞だ! 除霊キックを食らわせなかっただけマシだろ。いいから、さっさとトモから離れろ!」
離れろと言いつつも、福沢さんが動くのを待たずに引き剥がしてくれました。
介抱された私は、瞬時に葉月君の後ろに隠れる。盾にしちゃって申し訳ないですけど、今だけは許してください。私、福沢さんのこと苦手ですー!
「トモ、もう帰ろう。こんなやつ、どうなったって構わないよ」
「ま、待ってください。私も福沢さんならどうなっても良いって思いますけど、実際に被害にあうのは、彼女さん達なのですから。何も悪くないのに酷い目にあうなんて、あんまりじゃないですか」
「うっ、確かに。ああ、もう! 生霊達も、どうしてコイツを呪わないんだ!」
それは激しく同感ですよ。
だと言うのに、実際は何の被害も無い本人は余裕の表情。
「やっぱり知世ちゃんとデートする方向で決まりかな。さっきの真っ赤になった顔、なかなか可愛かったよ。大丈夫、僕がエスコートしてあげるから」
「ダメだって言ってるだろ! だいたいトモに、デートなんてできるわけがない。きっとデートとは言えないお粗末なものになって、生霊だって邪魔しようとは思わないから!」
むっ! 葉月君、いくらなんでもそれは言い過ぎですよ。
わ、私だって本気を出せばデートくらい。デートくらい……ああー、ダメです、上手くいく気がまるでしません!
そして葉月君は、苦虫を噛み潰したような顔で言います。
「とにかく、トモは絶対にダメだから。デートには俺の双子の妹をよこすから、それでいいな」
「双子の妹? 君の?」
福沢さんはまるで品定めをするように、葉月君をまじまじと見つめる。
「双子の妹って事は、君とそっくり?」
「ああ、そっくりだとも」
「妹ちゃんって可愛い? 写真見せてよ」
「生憎写真は持ってない。けどたぶん、可愛いんじゃないかな」
福沢さんはしばらく「う~ん」と考えましたけど、納得したように顔を上げます。
「まあ君の妹なら、きっと可愛いか。妹ちゃんに、楽しみにしててって伝えておいてよ♪」
どうやら決まったみたいですね。
ホッとしました。 あのままじゃ本当に、私がデートすることになりかねませんでしたから。
ただ、気になることが一つ。
葉月君に双子の妹なんて、いましたっけ?
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