七人の亡霊達
激務でも頑張ります。
学校が終わりその足で向かった、祓い屋協会の事務所。
今日は除霊のお仕事は無いけど、書かなければならない報告書があって、葉月君と一緒に訪れています。
祓い屋は霊を祓うだけでなく、こういう面倒な作業もあるのですよね。
机につきながら広げられた書類の空欄を埋めていると、隣で同じように書類を書いていた葉月君が、眠そうにあくびをしています。
「あれ? 葉月君、ここ日付間違っていますよ」
「あ、本当だ。ごめんごめん、ついうっかりしてた。ふぁ~あ……」
返事を返しながら、もう一度大きなあくびをする。そういえば今日は授業中も、眠そうにしていましたっけ。
けど、無理もありません。最近やたら仕事が多くて、昨夜も遅くまでお祓いをしていましたもの。
実は私も眠くて、まぶたが重いのですよね。今日は早く終わらせて、帰って休みたいものです。
だけどそんなことを考えながら、書類を書いていると。
「あの~、二人ともちょっといいかな~?」
不意に声をかけてきたのは前園さん。
私も葉月君も動かしていた手を止めましたけど、なんでしょう? 前園さんは何だか、ためらいがちな様子です。
「どうしたの? ひょっとしてまた、仕事の話?」
「う、うん。実はT市の港で、霊気の乱れが観測されたのよね。それで明日の夜、二人に調べに行ってもらえないかなーって思って」
霊気の乱れ。実は依頼を受けて動くだけが、祓い屋ではないのです。
調査員と呼ばれる人達が定期的に様々な場所の霊気の流れを測定し、異常があれば調律するのも、祓い屋のお仕事なのです。
普通自然界に存在する霊気は、穏やかな流れをしているのですが。何かのきっかけでそれが乱れると、近くを漂っていた霊が悪霊になったり、霊道と呼ばれる幽霊の通る道が開いて、何も知らない一般人がそこに迷い混んだりしてしまうのですよね。
だから霊気の乱れが観測されたら異常がないかを調べ、清めの術を使って正常な状態に戻さないといけないのですが……。
「明日、明日ねえ……。けど俺達今週、もう三回も仕事してるんだよね」
葉月君が顔をしかめるのも無理ありません。
学校と祓い屋の両立は大変なのに、こう週に何度も駆り出されてはさすがに疲れてしまいますもの。
「私もちょっときついと思います。他に誰かいないんですか?」
「なにぶん急な話だったから、調整がきかないのよ。火村さんはその日、有給取ってるしねえ」
難しい顔をする前園さん。だけどそれを聞いて、私と葉月君は顔を見合わせます。
火村さんが有給を? 普段は滅多に、休みなんて取らない人なのに。
「師匠が休みなんて珍しい。明日、なんか予定あるのかな?」
「そうですねえ……あ、そういえば! 明日って、悟里さんの結婚記念日じゃなかったですか?」
「あっ!」
そうです、忘れていました。
仕事が忙しくて結婚式をあげていない悟里さんですけど。たしか去年のその日、旦那さんと籍を入れていたのでした。
「そうなのよ。火村さん、前からこの日だけは絶対に休むって言っててね。さすがにせっかくの記念日を、邪魔するわけにはいかないでしょ」
「そうだねえ。仕方ない、明日はやっぱり俺達が行こう。トモもそれでいい?」
「もちろんです。結婚記念日くらい、悟里さんにはゆっくりしてもらいたいですもの」
こういう時くらい、師匠孝行してあげないと。だけどそう思ったその時。
「あたしがどうしたって?」
キャアッ!?
突然かけられた声に、思わず悲鳴が出かかる。振り返るとそこにいたのは、件の人悟里さんでした。
今の話、聞かれてませんよね?
「さ、悟里さん。いらしてたんですか」
「ああ、除霊をして戻ってきたところだよ。ところで、あたしの話をしていたみたいだけど?」
「師匠が休みをとるなんて、珍しいなーって話をしてたんだよ。結婚記念日なんだよね」
私に変わって葉月君が言うと、とたんに悟里さんの表情が緩む。
「ふふふ、そうなの。あたしもダーリンも忙しいけど、記念日くらいは一緒に過ごしたくてね。今日の依頼も、頑張って終わらせてきたの。ああ、明日のデート、何着て行こうかな~♡」
まるで恋する乙女のように、ウキウキとはしゃぐ悟里さん。
すると前園さんが、そっと私達にささやいてきます。
「ちょっとお願いがあるんだけど。明日のことは、火村さんには黙っておいてくれないかな」
「わかってます。せっかくの記念日なのに、変に気を使わせたらいけませんものね」
悟里さん、あれで結構責任感が強いところがあるから。
自分が休んだせいで私達が行く事になったなんて知ったら、休みをキャンセルしかねません。
けど私は、それに葉月君だって、たまには悟里さんに休んでもらいたいんです。
明日のお仕事は私達に任せて、悟里さんは素敵な結婚記念日を、過ごしてくださいね。
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