水原知世side
番外編 事件の裏で起きていた大騒動
白雲女学院への潜入捜査を終えて、祓い屋事務所へと帰る途中の私と葉月君。
これから報告書をまとめて、調査団を作ってもらって。やることはまだまだたくさんあります。
あ、でもその前にまずは、着替えないとですね。いつまでも他校の制服を着ているわけにはいきませんから。
だと言うのに。
「ねー、トモ。せっかくだからどこかで、ごはん食べてから帰らない? あたし奢るからさあ」
「ダメです、まずはちゃんと報告しないと。と言うか葉月君、いつまでその女の子キャラやってるんですか?」
葉月君ってば白雲女学院を出てからも、ずっとこんな調子。あまりに完璧に女の子を演じているせいで、さっきはナンパをされました。
けどあしらい方まで完璧で、私の手を握りながら「残念、あたしこれから、この子とデートなの♡」と言い放ち、ナンパ男たちはすごすごと退散していきましたっけ。
けどナンパを撃退するのはいいですけど、私までドキッとさせないでください!
はぁ、これ以上面倒に巻き込まれたらたまりません。さっさと帰りましょう。
と言うわけで、二人して事務所に戻って来たのですが。
ドアを開けた瞬間、ピタリと足が止まった。
いったいどうしたのでしょう。事務所の中は、どんよりとした空気が立ち込めています。
中には数人の職員がいたのですが、みんな憔悴しきった顔をしながら、ぐったりしていたのでした。
それどころか中には、うつ伏せで床に倒れている事務員さんまでいます。こんなのどう考えても、普通じゃないですよね。
「ちょっと、皆さんいったいどうしたんですか?」
「ひょっとして、呪いか何か? 祓い損ねた悪霊の、襲撃を受けたとか?」
もしもそうだとしたら一大事。
私も葉月君も瞬時に身構えますが、そんな私達に疲れた様子の前園さんが、声をかけてきました。
「ふ、二人とも。これは呪いでも、悪霊の仕業でもないから。ある意味もっと厄介な人が、大暴れしたのよ」
「厄介な人?」
「ほら、あそこよあそこ」
前園さんが指差した方に目を向けると……ヒィっ!
思わず悲鳴が出かかりました。
そこには椅子に腰掛ける、鬼のような形相の悟里さんがいたのです。
心なしか、背中からは真っ黒なオーラが立ち上っているようにも見えます。
ど、どうしちゃったんですか?
「え、ひょっとしてみんながボロボロなのは、師匠の仕業? いったい何をしたの?」
腫れ物に触るように尋ねた葉月君でしたけど、その瞬間悟里さんの目がギラリと光り、私達を睨みました。
「おやおや~、これはこれはピチピチしたJKさん達じゃないですか~。若々しい制服姿が、よ~く様になっていますこと。けっ!」
不機嫌を隠そうともしない悟里さん。
そ、そういえば今日の依頼、本当なら悟里さんが行くはずでしたっけ。
だけど悟里さんが高校生に変装するのは無理があると言う理由で、急遽私達が行くことになりましたけど。まさか、それで怒っているのですか?
「火村さん、二人が行った後も『あたしじゃダメってどう言うことだーっ』とか、『まだまだ高校生で通じるわーっ』とか言って暴れちゃって。おかげで皆この有り様なの」
疲れきった体を支えながら、何とか説明してくれる前園さん。
やっぱりそうでしたか。悟里さん、一度機嫌が悪くなると引きずりますから。
「べ、別に師匠がいけなかったわけじゃないじゃない。ただ俺やトモは現役の高校生だから、より適していたと言うか」
「そ、そうですよ。悟里さんが行っても良かったですけど、念には念を入れただけですって」
葉月君も私も必死になってフォローをするけど、それで納得する悟里さんじゃありません。「ふふふ」と言う、不気味な笑みを浮かべてくる。
「うん、そうだねえ。確かに現役高校生の方が向いてるって言うのは、あたしもわかるよ」
「でしょでしょ。だからほら、機嫌直して」
「ただし、知世ちゃんはともかく問題は風音。あんたは男子でしょうが! なのに女の子のあたしを差し置いてJK役をやるとはどう言うことだーっ!」
う、痛い所をついてきます。
実際女子に化けた葉月君は全然違和感なくて、やっぱり適任だったとは思うのですが、悟里さんの言いたいこともわからないではありませんもの。
すると葉月君が、困ったように言います。
「あのさ、さっきの台詞でちょっと疑問に思ったんだけど。師匠はもう、『女の子』なんて呼べる歳じゃないよね? どちらかと言えば、オバ……」
「はぁっ!?」
ものすごーく余計な発言を受けて、悟里さんがこの世のものとは思えない恐ろしい顔になる。
な、な、なんて事を言うのですか!
今朝も余計な事を言って怒らせたばかりだと言うのに、失言製造機ですかアナタは!
すると悟里さんはスッと椅子から立ち上がって、ズカズカと葉月君に詰め寄っていく
そして。
「風音、脱ぎなさい」
「は? 脱ぐって何を?」
「その制服だ! あたしがまだまだイケるって事を、それを着て今晩ダーリン相手に証明するから!」
「ちょ、ちょっと待った。いったい何をする気? 嫌な予感しかしないんだけど!?」
「い・い・か・ら、脱げーっ!」
「キャーッ!?」
もはや問答無用。悟里さんは乱暴に、葉月君の服に手をかける。
そこからはもう、地獄絵図でした。
ブレザーを脱がされ、ブラウスを引き剥がされ、あられもない姿にされていく葉月君。
もちろん必死に抵抗してましたけど、悟里さんはそんな彼を、容赦なく襲っていく。そして悟里さんの手がスカートに伸びたところで、私は事務所の外へと逃げ出しました。
え、助けるんじゃないのかって?
無茶言わないでください。こうなった悟里さんを、いったいどうやって止めろと言うのですか。
それに、その。葉月君が服を脱がされているのですよ。これ以上この場にいたら、色々見えちゃうじゃないですか!
と言うわけで、私は葉月君を見捨てて逃げました。
後ろから「トモ助けて!」って悲鳴が聞こえてきましたけど、ごめんなさい無理です!
その後騒ぎが収まった後、恐る恐る事務所の中に戻ってみましたけど。
そこには肩から毛布をかけられた葉月君がガタガタと震えていて、「トモの裏切り者」と繰り返していました。
ごめんなさい葉月君。本当にごめんなさい!
今度アイス奢りますから、許してください!
一方悟里さんは白雲女学院の制服を着て、意気揚々と家に帰って行ったのでした。「ダーリン待っててねー♡」って、鼻歌まじりで。
私を含めて事務所一同、何か言いたげでしたけど、皆さん口を開くことなく、それを見送ります。だってこうなった悟里さんは、もう誰にも止められませんから。
その後悟里さんがどうなったかは、誰にもわかりません。 だって聞く勇気のある人なんて、いませんでしたから。
女子高に現れる幽霊 完
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