第37話
「《
アガルタの
「な、に……言ってんだ。そんなこと」
言葉が途切れる。
オレは、数年前に《第参アガルタ》に連れてこられた。
《第参アガルタ》には、元から《賢者の石》があった。
《賢者の石》が封印の要石なのだとしたら。
なら、《
「《第拾弐ディストラクション》は、《第拾弐アガルタ》深部調査隊が、
そんな、でも……
「調査隊を派遣した環境省はその事実を隠蔽し、あまつさえその後の混乱でお前を喪失。十年後ようやく発見するも、お前の存在は秘匿され、それからずっとお前は穴蔵生活だ」
オレの手を、凜火が握り締める。
「環境省外局の
瓦斯鬼は折れた角を撫でる。
「全滅に近い損害と引き替えに、伝説級を殺すことには成功した。だがな、その後に俺たちがどういう扱いを受けたのか、知ってるだろ」
《第拾弐ディストラクション》は、戦律師不要論を勢いづけるきっかけになった。戦律師を時代遅れと位置づけ、防除調律師こそがこれからの調律師だと、世論は形作られた。
「
瓦斯鬼が、オレに問う。
「許せるか、この状況を?」
「俺は《賢者の石》であるお前を非難するつもりはねぇ。むしろ被害者だと思ってるくらいだ。だが、戦律師が社会的悪として見られている今、もしお前が《第拾弐ディストラクション》の原因で、しかも戦律師を目指していることが人々に知られればどうなる?」
「……それは」
「俺に協力しろ。そうすれば、最もスマートな形で戦律師を取り巻く状況を改善してやる。お前だって、胸を張って戦律師になれるんだ」
「でも、それなら、テロなんて起こさなくても……」
オレの弱々しい反論を、瓦斯鬼は苦笑で弾き返す。
「事実を公表すりゃいいってか? よしんば上手く曝露できたとしてだ。どの程度の人間が考えを改める? 『あっそう、でもお前らが被害抑えられなかったのは事実じゃん』って言われるのがオチだ」
言葉に詰まるオレに、瓦斯鬼は教師のような顔を向ける。
「いいか? 世の中の人間ってのは、現実的な脅威にさらされないと、考えを改めねえんだよ。百回の正論より、一度の危機感の方がずっと効果的なんだ。悲しいことにな」
そう言う瓦斯鬼の目には、人間に対する諦観が漂っていた。だがそれもすぐに消える。
「俺に協力しろ。難しいことは何もない。お前はこの街から、《第参アガルタ》から離れるだけでいい。そうすりゃ後は俺たちが片付ける」
瓦斯鬼がオレに手を差し伸べる。凜火の手よりも大きな、本物の戦律師の手が。
オレの手を、凜火が力強く握り締めた。瓦斯鬼よりも柔らかい、けれど安心する手が。
「──……お断りだ。瓦斯鬼、アンタの言うことは、確かに一部筋は通ってるかもしれない。けど、オレはアンタに協力はしない。オレは、アンタの仲間にはならない」
くたびれた顔で瓦斯鬼がバリバリと頭を掻く。
「……ハァ、そうかい。やれやれ。せっかく今まで穏便にやってきたのによ……」
「アオハさま」凜火が耳元で囁く。
「囲まれています。少なくとも十人。恐らく狙撃手も」
ギリ、と奥歯を噛みしめる。そりゃ、穏便に帰してくれるわけねーか……
「凜火、武装は?」
「九ミリが一丁、弾倉二本にナイフ一本です」
「はっ、やべーな……」
どう足掻いたって、十人以上の本職に敵う武装じゃない。
けど。
「好きなだけ魔力やる。大暴れしてやれ」
「うふふ、承知しました」ヨダレを拭けお前は。
「おいおい、こっちは軍人だ。怪異だけじゃなくて、魔術師も殺し慣れてる。止めとけって」
瓦斯鬼が本気で心配した顔をする。余裕こきやがって、オレたちじゃ手も足も出ないってのか……!?
「行くぞ、凜火」
「ええ、イキましょう、アオハさまっ」
「だからお前は! ……ああもういい! 行くぞッ!」
「止めなさい。二人とも」
戦端を開こうとしたオレたちを、冷たい女性の声が引き留めた。
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