第38話
「止めなさい。二人とも」
カンカン、と階段をヒールが叩く音がやって来る。スーツ姿の女性が、その身の丈ほどもある大太刀を携えて現れた。
「久しぶりだな、
「ええ、一ヶ月ぶりでしょうか?
石榴と瓦斯鬼が平然と言葉を交わす。石榴が現れた瞬間、周囲に潜む気配がざわめくのをオレは感じとった。オレでも解るほどに、本職の軍人が動揺している。たった一人、この場に現れただけで。
戦場の空気を塗り換える石榴の実力。その底知れ無さにオレは膝が震える。
「ここで邪魔するってことは、そういうことで良いんだな?」
「ええ。今まで半分はあなたの味方のつもりでしたが、これ以上は看過できません。計画を中止しなさい。伶仗くん」
「俺が生きている限り、計画中止はあり得ねえよ」
瓦斯鬼の回答に、石榴は大太刀の柄に手をのばす。
「やるか? それも良いな。けど石榴お前、俺に一度だって勝てたことあったか?」
「……やってみなければわかりませんよ。これでも元は《マタイの魔女》です。伶仗くんほどではありませんが、魔術師を斬ることには慣れています」
石榴が鋭い視線で瓦斯鬼を牽制する。その様子に、瓦斯鬼は「はぁ……」と溜息をついた。突然弛緩した瓦斯鬼に、石榴は目を細める。
「石榴ぉ。お前さぁ、ひょっとしてまだ俺のこと好きなのか?」
唐突に、瓦斯鬼が石榴に問うた。石榴は一瞬呆けた顔になり、微かに頬を赤くした。
「なっ……急になにを言ってるんですか、こんなところで……!」
え、なに、ひょっとして二人、そういう関係だったの……? あー、でも確かに、あの写真はそういうカンジだったかも……
顔を赤らめて動揺する石榴に、瓦斯鬼の表情は岩のようだった。
「そういうところだよ。俺がお前をフッた理由は」
「……えっ」
石榴の表情が凍り付く。
「中途半端でどっちつかず。そんなことだから、十七年前俺たちは世界から見放された。あのときお前が、調査隊唯一の生き残りのお前が真実を公表していれば、俺がこんなことをする必要もなかったんだ……!」
瞳の奥に蒼い炎を滾らせながら、瓦斯鬼は冷たく言い放った。石榴は大太刀に手を遣ったまま、固まっている。
「興醒めだ」
瓦斯鬼はフードを被り、ポケットに手を突っ込むと踵を返した。
石榴の隣で足を止めた瓦斯鬼が、石榴の顔を見ることなく呟く。
「次会うときは敵同士だ。中途半端な気持ちで俺の前に立てば殺す」
そう吐き捨て、鬼の軍人は姿を消した。
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