第32話
「わたしたちを監視している者がいます。駅を出てからずっと」
触れたら指が切れそうなほど張り詰めた表情で、凜火がバッグに手を突っ込む。
「ちょ、バカお前それ──」バッグから出てきた拳銃に、声を出しかけたところで口を塞がれた。
「お静かに」「もが、もご」
凜火にぎゅっと抱きしめられたまま、オレは仕方なく黙り込む。隠れた場所はひと気がなく、照明も薄暗い。そこに、パタパタと慌ただしい足音が近づいてきた。
「見失った?」
「そっちは」
「いや、こっちも」
耳に届く会話で、それが追跡者だと知れた。びくり、とオレが震えると、汗の滲む凜火の手がオレの手を握った。
「いざとなったら、わたしが引き付けます。アオハさまは急いで学園に戻って石榴に知らせてください」
「でも、それじゃ凜火は──!」
すぐそばで聞こえた足音に、オレは口を噤む。
足下に影が伸びた。もう、棚のすぐ向こう側に追っ手が……!
凜火が動いた。姿勢を低く、足音を消して棚の向こう側に回り込む。そこにいた追跡者の背後を取ると、背中に銃口を押し付けた。
「動くな」氷のような凜火の声に、追跡者は飛び上がる。
「ひゃあああ!? う、撃たないでください!」
金髪の追跡者が、素っ頓狂な声を上げた。というか、コイツ……
「なにやってんの、恵?」
凜火に銃を突きつけられていた恵が、「あ、アハハ……」と苦笑する。
「ちょっと、見つけたの? ……あ」
「ホレ見ろやっぱバレたのナ」
聞き慣れた声が更に二人分、その場に響く。
「やば」と呟くイリスと、「ふぁああ……」とやる気なさそうにあくびをするさわりが、すぐ隣から姿を現した。
「お前ら、ちょっと詳しい話を聞かせてもらおうか?」
「人の……で、デートを覗き見すんなよ!」うわ、なんでデートって言うだけでこんな恥ずかしいんだ!?
「ごめんね、アオハちゃん……でも、気になっちゃって。ね、月城さん?」
「そりゃあそうよ。あなたたち二人がちゃんとデートできるか、見届けようと思ったの。それだけよ」
「アタシは無理矢理連れてこられただけナ……」
目を輝かせながら謝る恵(女装バージョン)、何故か偉そうに開き直るイリス、そしてひたすらあくびを繰り返すさわり。
好奇心は結構だけど、恵はあとちょっとで凜火に殺されてたぞ……
「オレたちは大丈夫だから! ほっといてくれ!」
「はぁ~い」
「ま、ひとまず大丈夫そうだしね。なにか困ったら連絡なさい」
「ねむい……」
ひらひらと手を振り、イリスたちが賑やかにおしゃべりしながら去って行く。
「じゃあボクたちも買い物しようよ!」「わたくしは節約するので買いませんが、さわりさん、あなたの服買うわよ」「アタシはこれでいーんナ!」Tシャツハーパンのさわりが吠える。
「え~勿体ないよぉ。さわりん可愛いんだから」「あなたがその格好で言うと、嫌味に聞こえるわね……」「ほらほら早く~」「にゃめろぉおおおッ!?」
やかましい奴らだな……
気を取り直して、オレは凜火の手を握り直す。どこか釈然としない顔をしていた凜火がハッとしてオレを見る。
「……どした?」
「もう一人、いたような気が……」
「は?」
「あ、いえ! 何でもありません……」
「じゃ、仕切り直しだな。オレ、ゲーセン? 行ってみたい」
オレの要望に凜火が目を輝かせる。
「わかりましたっ! プリクラブースの中でヤルんですね!」
……なにを?
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