第31話
電車に揺られること十分。《第参アガルタ魔導研究開発区》から離れるにつれ、周囲の風景は市街地に変わってくる。大きな川を渡ると、中心市街地だ。
「それで、今日はどうしましょうか?」
凜火が訊ねる。
「えっと、ショッピングモール? ってのがあるんだろ? そこ行ってみようぜ」
「承知しました。なにか欲しいものがあるんですか?」
「いや特にないんだけど……うぃんどうしょっぴんぐ、を楽しむんだ!」
完全にイリスの受け売りだけど、まあいいや。
それほどの距離はないということなので、ショッピングモールまでは歩くことにした。
オレは初めて駅の外に足を踏み出す。前回、リンゴ農家のバイトで駅を使った時は、結局外には出なかった。なので実質今回が初街歩きだった。
「おお、大都会……!」
立ち並ぶビルや行き交う人々に、オレは思わず子供みたいな感想を漏らす。
「大と付くほどの都市ではありませんが……」
「え、あぁ、そっか……東京とかはもっとスゴいんだよな。行ったことないからさ、イメージできなくて」
世間を知らないオレの呟きに、凜火が表情を曇らせる。
「ああえっと気にすんな! それよかアレ、アレ食べたい! 鯛焼き!」
「でしたら、川沿いの通りに有名なお店がありますよ」
「おし、じゃあそこ行くぞ!」
凜火の手を引っ張って、オレはずんずん歩を進める。今日は、凜火を笑わせたくて出かけたんだ。余計な心配をさせたくない。
川沿いに小洒落た店舗が建ち並ぶ一角で鯛焼きを買い込んでいると、凜火がふと遠くの方を見つめていた。
「あんことクリームチーズ、どっちがいい? ……どした?」
「え。あ、いえ。なんでもありません。わたしはアオハさまのミルクがいいです」
え、なにそれ……? 出ないよ……怖……。
鯛焼きを頬張りながら、てくてくとショッピングモールに向かう。土曜日ということもあって、周囲には家族連れやカップル、学生が多い。鯛焼きを囓りながら、凜火は人波に視線を送っている。
ショッピングモールは、三つの棟に別れた大きなものだった。専門店が建ち並ぶエリアを、オレはキョロキョロしながら凜火の手を引いた。
「おお、テレビとか映画で観たことあったけど、ホントにあるんだな~。ザ・ショッピングモール!」
思わずテンションが上がってしまう。
すると、すれ違った女の子グループから「今の子見た? かわい~」「姉妹かな」の声が聞こえた。
ぐぬぬ、とうつむく。確かに今のオレと凜火は外見のせいで姉妹に見えなくもない。その場合、浮かれてはしゃぐ妹(オレ)と、落ち着き払った姉(凜火)という構図に見えてしまうのだろう。解せぬ……。
ここは落ち着いてオレがエスコートせねば。間違っても浮かれてはしゃぐ子供のように見られてはいけない……。
気を取り直し咳払いしたところで、凜火が隣にいないことに気付いた。
振り返ると、凜火は店の前で立ち止まっていた。どうやら結婚式場の出店ブースらしく、華やかなウェディングドレスが展示してある。
凜火はどこか憂いを帯びた表情でウェディングドレスを眺めている。その姿はなかなか様になっていて、通り過ぎる客たちの視線を自然と引き寄せていた。
「凜火なら似合いそうだな」
凜火の隣に立ってオレは呟く。
う〜ん、オレにはこういうのは似合わないだろうなぁ……
……アレッ!? いやいやいや!? なんでオレがドレス着る前提で考えてんだよ!?
漢(をとこ)としてのアイディンティティが揺らいでショックを受けていると、凜火の視線がオレに向いた。
「わたしは、アオハさまに着させてもらいたいです」
「は? なんでオレ? 店の人にやってもらえよ」
オレが首を傾げると、凜火は「そういうことじゃないです」と珍しく拗ねた顔になった。
え、なに、どういうこと?
キョトンとしていると、突然凜火の表情に緊張が走った。オレの腕を掴むと、足早にその場から歩き去る。
「え、ちょ、凜火?」
凜火は黙ったまま、雑貨屋兼本屋といった感じの店に駆け込んだ。入り組んだ商品棚の影にオレを押し込むと、覆い被さるように身体を密着させてくる。え、なになになに!? まさか、コイツついに我慢できずにオレを……
「ちょ、ちょっとまてっ! 初めてはちゃんとした場所がいいというか、いやそういうことがしたいワケじゃなくてただ一般論としてだな」
「尾行者がいます」
「せめてベッドの上が……なに?」
「わたしたちを監視している者がいます。駅を出てからずっと」
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