第30話

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 翌日の土曜日、空は気持ちよく晴れ渡った。寮の窓から、山並みが綺麗に見渡せた。

 オレは、きのう恵から借りた服に身を包み、洗面所から顔を出した。ベッドに腰掛けて歯を磨いていた凜火が、オレの姿に目を瞠る。

 今日のオレの出で立ちは、スカートが隠れるくらい丈長のパーカー、足下は白いハイソックス。いつも頭の横で二つに結んでいる髪は、今日はポニーテールにしてキャップの後ろからぴょこんと出している。

 ボーイッシュとガーリィな感じが、うまく同居している。さすが恵と言わざるを得ない。我ながら、かなり可愛い。

「な、なんか言え……」

 歯ブラシを口に突っ込んだまま固まっていた凜火が、ぽつりと呟く。

「……ホ」

「ほ?」

 つぅ、と赤いものが凜火の鼻から滴る。

「ホテル行きましょっ! 今すぐ! 休憩! 三時間!」鼻血を飛び散らしながら、凜火がオレに飛びついてくる。

「うるせーばかこの色情魔あっち行け!」

「イケ!? わかりましたイキますイキますっ! すぐイキますっ!!」

「放せェッ!!」

 ばっちーん!! 

「あぁんっ♡」


 ほっぺたに真っ赤なモミジを作った凜火と一緒に、学園の門をくぐる。

 今日の凜火は、脚のラインが際立つ細身のデニムに、ゆったりとしたシルエットのブラウスをそつなく着こなしている。クソ、こいつ何着ても似合うな……

 伯嶺学園前の駅で電車に乗って、ショッピングモールや映画館などがある中心市街地へ向かうことになった。

 隣に座った凜火に、オレはぼそっと呟く。

「ヘンな声出すクセ、あれなんとかしてくれ。一緒にいるこっちが恥ずかしくなる」 

 オレの苦言に、凜火は「ふふっ……」と意味深な笑みを浮かべた。

「なんで笑った!?」うがーっと牙を剥くオレに、凜火が微笑む。

「一緒にいるのは、嫌じゃないんですね?」

「あ……っ」

 カァア……と顔が熱くなる。

「し、仕方ないだろ……、凜火と一緒にいるのが、理事長の命令なんだから……」

 もにょもにょと言い訳するオレの手を、するりと凜火の手が握った。

「今日、楽しみです」

「……そーかよ」

「ええ」

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