第24話

 さわりは興奮した表情で続ける。

「いいか? 図書館から消えた古い文献の中には、強大な怪異について書かれたものがあったのナ。一見すればどの地域にもある昔話なんナ。でも、それが忽然と消え、その直後に怪異災害、そしてオマエの登場ナ」どうだ、と言わんばかりに薄い胸を張るさわり。

「いやいや、全然解んないって……どこがどう繋がったらそれが伝説級怪異ヘカトンケイル級の存在証明になるんだよ」

「はっ。バカにゃろオマエ」あ? なんにゃろこの。

「《賢者の石》が何のためのものか、考えたことねーのかナ?」

「なにって、そりゃぁ。……あれ、そういえばなんだろう……」

「莫大な魔力を蓄えた人型の魔力結晶。フツーに考えりゃ、魔力源にするのが妥当ナ。でも、LDK事件のことを思い出して、一つの仮説が立ったのナ。《賢者の石》の目的は、魔力を使うことではなく、喰うことだってナ」

「魔力を、喰うことが目的?」

「そうナ。オマエ、実技試験のとき魔力シールド食い破ってたにゃろ」

 う……、石榴の「見る人が見たら怪しまれる」という言葉は本当だったか……

「きっと、魔力を喰うことが《賢者の石》の本来の用途なのナ。そしてその目的は、伝説級怪異ヘカトンケイル級の封印ナ」

伝説級怪異ヘカトンケイル級の魔力を喰って、抑え込むのことが、《賢者の石》の目的だと……?」

「ちっとは冴えてきたナ」にやり、さわりが笑う。

「その仮説は良いとして、《アガルタ》での怪異災害は関係ないのでは?」凜火がさわりの論の不備を突く。

「アタシはこう考えるのナ。怪異災害は人為的なもので、そこには何らかの形で伝説級怪異ヘカトンケイル級とそれを封じ込める《賢者の石》が関わってる。事実関係を悟られないために、図書館から文献が消えた! そうに違いないにゃろ!」

 長椅子の上に立ち上がり、さわりが「どうだ!?」と言わんばかりにオレたちを見下ろす。

「……いや、なんかそれ、無理矢理すぎねぇ?」

「うっさいのナ!」

「それだと、文献が消えたのが事故の前というのはどういう説明になるのですか? 証拠隠滅なら、事故が起きた後に文献が消えるのでは?」

「う、あれ? うぅ? それはぁ……」

 狐耳をハタハタ動かし、さわりが頭を抱える。オーバーヒート起こしてるなコイツ。

「と、とにかく! アタシの庭で異常が起きてるのは事実にゃろーが! 事実究明のために手を貸せナ!」うわ、ゴリ押ししてきた……

「今から《アガルタ》に潜って調査するのナ! 手を貸すんナ!」

「やだよ。どうしてオレがお前の陰謀論に付き合わなきゃいけねーんだ……」

「陰謀論、嫌いかナ……」

 なんでそこで目を潤ませるんだよ……

「そーいうのはポテチ食いながらテレビで見るから楽しいんだよ」

 ちなみにこれはオレが最近発明した最強の娯楽である。

「オマエには探究心がないのかナ!?」

「うるせー! 虎の穴で好奇心に殺されかけるのはもうこりごりなんだよ!」

 さわりがぷるぷると震え出す。

「手伝わないとオマエの正体バラしてやるのナ!」

「なっ!? てめ~……!」

「オマエからアタシの話に乗っかってきたんにゃろーが! 最後まで責任とるのが道理にゃろ!」

「なんの責任だよ!? おい凜火もなんか言ってやれ!」

「ふふ……最後までシて、責任……ふひっ」

「やっぱ凜火は黙ってて……」

 ぽん、と凜火の手がオレの肩に置かれる。

「まあまあアオハさま。ここは人助けだと思って、榊さまの気が済むようにしてあげるのは如何でしょうか?」

 善人ぶった笑みを浮かべる凜火を、オレはジトッと睨む。

「……お前、オレをひと気のない暗い場所に連れて行きたいだけだろ」

 凜火が視線をスッと逸らして呟く。

「そ、そんなワケないにゃろ」

 ……図星すぎにゃろ。

 無許可で《アガルタ》に潜る。これは石榴の命令を完璧無視する行動だ。もしバレたら、説教で済むレベルではない。だけど、ここでさわりを放置したら、コイツは何をしでかすか分かったもんじゃない。あぁ、もう、どうして正体明かしちゃったんだろ……

「はぁ~~ッ、もうッ! わーった、わーったよ! 手伝えば良いんだろ!?」

「そうと決まれば今から出発ナ!」

「今から!? もう夜だぞ」

「《アガルタ》に夜も昼もねーにゃろ。ホレ、さっさと準備してオマエらの部室に集合ナ」

 さわりはぴょん、と長椅子から飛び降りると、バックパックやらを用意し始めた。

「わたしたちも準備しましょう。ナニ持っていきましょうか?」

 楽しそうだな、凜火……

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