4-調査 (2)

 夢村は宏平の実家を去ると、次は亜利紗の墓へと向かった。

 亜利紗の墓の前ではちょうど、三十代前後の女性たち数人が花を飾っていたので、夢村はその人たちの話も聞くことにした。先程のように不信感を抱かせないため、今度はきちんと自分の身分を真っ先に説明し、本題に入る。


「宏平さんについてお聞きしたいのですが……」

 話好きのメンバーだったようで、こちらが質問をしなくても次へ次へと勝手に話を進めてくれる。

 そういうのが嫌だと言う人もいるだろうが、探偵という立場からすれば非常にありがたい。口が堅いよりは断然いい。困るのは時間に限りがあるときだけだ。

 幸いなことに今日は時間に追われていなかったので、女性たちの気が済むまで話を聞いていた。話の内容はほとんど覚えていなかったが、ただ一つだけ覚えている言葉がある。

 一人の女性が不意に、

「でも、お父さんが一度も会いに来てくれないなんて、亜利紗ちゃんもかわいそうよねえ……」

 かわいそう。そう、言ったのだ。

「かわいそう……」

 夢村は墓を見てつぶやいた。心なしか、亜利紗の墓がまわりの墓よりも沈んだ雰囲気を帯びているような気がした。


(確かに、かわいそうだ―――)

 夢村は墓の前で静かに手を合わせ、目を閉じた。

 夢村には死んだ者がどうなるのかなんて到底分かり得ないが、もし自分が死んだとき、自分の大切な人が墓参りに来てくれないのは、きっと悲しいのだろうと思う。

(自分の死を信じてくれないのはそれだけ愛されていたという証拠なのかもしれない。だけどそれでも、その死を信じないあまり愛する人が会いに来てくれないというのは、とても辛いことだろうと思う。だから、きっと亜利紗ちゃんも辛いのではないだろうか。寂しいのではないだろうか。

 死を迎えた人間に、まだ何かを感じる心があるのかどうか僕には分からないけれど……。

 それでもやっぱり悲しいことだと思うから。宏平さんにとっても、亜利紗ちゃんにとっても、辛いことだと思うから―――)

 夢村はゆっくりと目を開けて墓を見据える。


 どうにかして、二人を会わせてあげたいと思う。

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