3-調査 (1)

 依頼人、木戸宏平の娘の名前は亜利紗ありさ。宏平があまりにも怪しく見えたことから念のため戸籍を確認すると、意外にもあっさりと捜し人は見つかった。それはあまりにも早い発見で、またあまりにも驚くべき事実だった。

 木戸亜利紗は、死んでいた。

 行方不明などではなかったのだ。当時五歳だった亜利紗は車にはねられて事故死。運転手のよそ見が原因だったらしい。

 戸籍で確認をとった結果、木戸宏平と亜利紗が親子であるということは確かであった。ならば、当然事故のことは宏平も知っているはずである。事故を起こした本人とも話をしてみたが、直接宏平に謝りに行ったと言うのだから、知らないはずはない。


 ではなぜ、亜利紗の捜索をわざわざ依頼しに来たのか。夢村はそれを探るため、宏平についても調べてみることにした。

 夢村は宏平の実家を調べ、直ちにそこへ向かった。それほど遠い所ではなく、電車で小一時間の距離に彼の実家は存在した。


「すみません、木戸宏平さんについて伺いたいのですが」

 夢村の言葉を聞くと、応対のため玄関まで出てきた人物はあからさまに眉をしかめた。名乗り忘れていたことに気づき、あわてて素性を伝える。

「あっ、夢村探偵所から来た、夢村京斗といいます。実は先日、宏平さんから亜利紗ちゃんの捜索依頼を受けまして……」

 そこまで言うと宏平の母、公子きみこは目を見開き、戸惑いながらも答えてくれた。

「亜利紗は……いません」

「ええ。戸籍を見て直ぐにわかりました。宏平さんもわかっているはずです。それなのにどうして宏平さんが捜索依頼をしたのか、僕はそれが知りたいんです」

 夢村が静かに言うと、公子は頷き、ゆっくりと話し始めた。

「もちろんあの子、宏平も亜利紗のことは知っています。しかし、どうしても認めようとしないんです。

 葬儀の時にも顔を出さないで『亜利紗は死んでなんかいない、絶対戻ってくるんだ』と、そう言い張っていました。

 最初のうちはただの強がりでしかありませんでしたし、周りもかわいそうがって『そうだね、きっと戻ってくるよ』などと声をかけていましたら、しまいには本当に行方不明なんだと信じ込んでしまったんです」

「では、墓参りなんかも……?」

「一度も行っておりません。でも、宏平ばかりを責めないでやってください。あの子はかわいそうな子なんです。

 嫁は育児がそれほど辛かったのかノイローゼになってしまい、亜利紗が生まれてから二ヶ月足らずで黙って出て行ったきり戻って来ません。そのうえ、あの子にとって唯一心の支えだった亜利紗も、二年前に居なくなってしまいました。その悲しみがどれほどのものだったかは計り知れません」

 公子がぼろぼろと涙を流して訴える。


 細かい部分はすべてあとから聞いた話になるが、宏平の妻がノイローゼにかかったとき、宏平やその母と父たちがなんとかしようと試みたものの結果は空しく、結局どうにもできなかったらしい。

 夢村は涙を流す公子を前にして、何か言おうと言葉を探ってみるが何一つ浮かんでくるものはなく、最後まで言葉をかけることができなかった。

 夢村は公子が泣き止むまで、ただじっと、そこに立っていた。

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