援助交際


「う……く……」


ぼくは今、セックスをしている。

相手はクラスのマドンナ、姫川さん。

しなやかな黒髪。すらっとした身体。つややかな唇。天使のような笑み。誰に対しても優しい。勉強ができる。クラスの委員長を務めている。


どこを取ってもカンペキな彼女が、どうしようもないぼくとセックスをしている。


「はぁ……はぁ……クソ、エロいな……」


彼女の制服を脱がすと、宝石のような身体だった。

形のいい胸。柔らかそうな腹。ひきしまった尻。

そんな美しい裸の彼女が、ぼくの上にまたがって、腰を振っている。

普段ならありえない、乱れた姿の姫川さん。


「ダメだっ、そんなことされたら、出ちゃう……!」


赤面する彼女に、ぼくは再び興奮した。

こんな彼女の顔を知っているのは、ぼくだけだ。


「く……くぁッ!」


ぼくは果てた。

ぼくのものたちが彼女の中に飛び出していく。


「はぁっ……はぁっ……」


息の音がうるさかった。

心臓がどくどくと鳴っている。


「気持ちよかった……」


興奮が収まっていき、ティッシュを取る。

身体を見下ろすと、白い液体がぼくの腹に飛び散っていた。


いたはずの彼女は、もういなくなっていた。


「……なにしてんだ、ぼくは……」


今日はじめて、クラスのマドンナを使ってオナニーをした。

毎日見ているせいか、想像するのは簡単だった。

そして、その力は絶大だった。

インターネットの何百倍もの快感だった。


「うわ、手に付いた……ベドベドするんだよな、これ」


処理をし終えてもまだ出てくる。

何度もティッシュで拭いているうちに、冷静になっていく。

好きな人をオナニーに使ったことに、罪悪感が生まれる。


「やってしまったなぁ……」


明日、姫川さんを意識してしまう。

ぼくの脳内で乱れていた彼女と、普段のおしとやかな彼女を重ねる。

もう、彼女を普通の目で見ることができない。

『あんな涼しげな顔して、あんなに乱れてたんだよな』と。


「あぁ、姫川さん……」


ぼくは音楽を流すことにした。

いつもオナニーのあとは音楽とともに過ごす。

ぼんやりとする意識を、メロディが優しく包み込んでくれる。


『だけど悲しい噂を聞いた あの子が淫乱だなんて嘘さ』


途中から再生すると、男性がそう叫んだ。

銀杏BOYZの『援助交際』だった。


歌詞に耳を傾けていると、ふと思い出す。


「姫川さん、誰とセックスしてんのかな」


噂では、彼女にはすでに恋人がいるらしく、セックスもしているという。

そのセックスがどうやらえげつないらしく、想像もつかないやばいことをする、と男友達が言っていた。

根も葉もない噂だ——そう思いながらも、ぼくは想像してしまった。


彼女が知らない男と狂ったようにセックスをしている姿を。


「うわ、また勃った……なんでだよ……」


ぼくではない男と交わる姫川さん。

ふたりは抱き合いながら、キスをしあいながら、快楽におぼれている。

ぼくはそれを傍から眺めている。

部屋の中に姫川さんの喘ぎ声が響いている。

身体がぶつかり合う音、液体の音、激しい吐息。


「……う!」


気付けば、右手でこすっていた。

姫川さんと知らない男のセックスを、ぼくはオカズにしている。

とは違った、別の興奮だった。

甘い物を食べたらしょっぱい物が食べたくなる——まさにそんな感じの。


「あぁ!」


一回出したらしばらく出ないはずだったのに、簡単に出た。

先ほどより量は少なかった。


「はぁーッ! はぁーッ……」


心臓がバグバクと暴れている。

息がうまくできなくて苦しい。

視界がぱちぱちとしている。

身体が石になったようにぐったりと動かない。


「……バカだな、ぼくは……」


興奮が冷めると、姫川さんも知らない男もいなくなっていた。

ぼくだけがひとり、ベッドの上にいるだけだった。


「姫川さん……ごめんね……」


ティッシュで拭くと、皮が切れたのか血が付いていた。

下半身の痛みに、ぼくは苦笑した。


『あの子は どこかの誰かと 援助交際』








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